(1/4)





「また会うとは‥‥‥奇遇だな、お嬢さん」


「‥‥‥や、ぁっ‥」


怯え、動くことも出来ない女。

それでも逃げ出そうとする背中に嗜虐心が疼き、手を伸ばしたのは銀髪の男。




平知盛



ゆきとは三度目の邂逅だった。












act10.消えかけの物語








「クッ‥‥‥女が一人で出歩くには、警戒心が足りんな‥‥」



腕一本分の距離を開けた先で、栗色の髪がぴくりと揺れる。
小刻みな振動が伝えてくる感情は、恐怖。

掴んだ帯を振り解こうと微かに身を捩り始めた娘に、知盛は笑った。
刀を振るう彼の腕を、女の力で引き剥がす事など出来ぬ。
‥‥そう。
あの源氏の神子ですら、素手でなら容易く捻じ伏せられるだろう。





だが、その気になれば幾らでも手立てがあるものを。
生田で、血に塗れながら知盛を押さえ切ったあの力を、此処で見せればいい。
刃光とはまた違う、紅炎。
今でも、知盛の脳裏から離れぬ光景。


流れた血と、炎。二つの紅の鮮やかさが眼裏に焼き付いている。




「ほぅ、恐怖で動けぬか‥‥‥ゆき」

「‥‥っ!!何で名前っ‥」



名を呼べば、愕然としていた。






忘れられる筈がない。


二度、殺そうとして

二度とも殺し損ねた、刀も持たぬ女の事を。


未知数に愉しませてくれそうな存在を。








BACK
栞を挟む
×
- ナノ -