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「また会うとは‥‥‥奇遇だな、お嬢さん」
「‥‥‥や、ぁっ‥」
怯え、動くことも出来ない女。
それでも逃げ出そうとする背中に嗜虐心が疼き、手を伸ばしたのは銀髪の男。
平知盛
ゆきとは三度目の邂逅だった。
act10.消えかけの物語
「クッ‥‥‥女が一人で出歩くには、警戒心が足りんな‥‥」
腕一本分の距離を開けた先で、栗色の髪がぴくりと揺れる。
小刻みな振動が伝えてくる感情は、恐怖。
掴んだ帯を振り解こうと微かに身を捩り始めた娘に、知盛は笑った。
刀を振るう彼の腕を、女の力で引き剥がす事など出来ぬ。
‥‥そう。
あの源氏の神子ですら、素手でなら容易く捻じ伏せられるだろう。
だが、その気になれば幾らでも手立てがあるものを。
生田で、血に塗れながら知盛を押さえ切ったあの力を、此処で見せればいい。
刃光とはまた違う、紅炎。
今でも、知盛の脳裏から離れぬ光景。
流れた血と、炎。二つの紅の鮮やかさが眼裏に焼き付いている。
「ほぅ、恐怖で動けぬか‥‥‥ゆき」
「‥‥っ!!何で名前っ‥」
名を呼べば、愕然としていた。
忘れられる筈がない。
二度、殺そうとして
二度とも殺し損ねた、刀も持たぬ女の事を。
未知数に愉しませてくれそうな存在を。
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