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開いた眼に最初に飛び込んだのは、見慣れた天井ではなかった。
白い天井、白いカーテンの端。
ピッ、ピッ、と規則正しい音が聞こえる。
‥‥あれ?
私、京にいたんじゃなかったっけ?
『‥‥ゆきちゃん?目が覚めたんだ‥‥』
そう言って私を覗き込んでくる空色の眼は、なぜか濡れていた。
『‥‥詩紋、くん?‥‥天真おじさ‥‥』
『無理して喋らなくていいって。じっと寝てろ』
『‥‥‥そうよ、寝てなさい』
『‥‥‥蘭ねえ‥‥』
天真おじさんも、泣いている蘭姉ちゃんも、ホッとしたような、でも疲れた顔をしていた。
‥‥‥この光景は、記憶に残っている。
なんで、今さら。
何でこれを見るんだろう。
『‥‥‥おと‥さ‥‥と、‥おかあさ‥は?』
『‥‥‥っ』
『‥‥‥‥ゆき‥っ』
蘭姉ちゃんが背中を向けた。
詩紋くんが俯いて
天真おじさんの大きな手の平で、私の眼を覆う。
『‥‥ゆき。大丈夫だ』
『‥お兄ちゃんっ』
『蘭。お前は黙ってろ』
天真おじさんの手は暖かくて
震えていた。
『大丈夫だ‥‥お前が元気になったら‥‥‥っ!』
あの時はそのまま眠りに就いちゃったけど。
‥‥‥今だから分かるよ。
詰まらせた先の、言葉の正体を。
それ以上紡げなかった理由も。
泣いてたんだね。
娘を残して逝ったお父さんとお母さんの為に
大切だった親友をなくした、悲しみに
そして残された私の為に
act8.夢の進む道
次に眼が覚めたときは、梶原家の高い天井が見えて。
あれは、両親を奪った日の数日後の病室でのことだと分かった。
うろ覚えの記憶。
なのに鮮明に思い出してしまった事が、胸の中で燻る火を熾す。
「‥‥‥っく‥‥なん、で‥‥」
懐かしい夢の、悲しい余韻を引き摺ったまま
暫く涙に暮れた。
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