(2/5)
「弁慶さん!」
ごちそうさま!とダッシュで箸を置いて、弁慶の後を追うため縁に出る。
外に出た瞬間、差すような冷気と風が肌を突き刺した。
寒さを我慢して走るのは、弁慶が向かった筈の私室。
だったけれど‥‥‥途中、暗がりから伸びた腕に捕まり、あれよという間に引き摺られた。
「やだっ!!」
「しーっ、静かにしてください」
穏やかな声。
ホッとして眼を開ければ、真っ暗な中に愛しい人の顔がドアップでこちらを見下ろしていた。
「べ、んけいさん‥?」
「此処なら邪魔が入りませんから。僕に話したいことがあったんでしょう?」
「話っていうか‥‥‥」
泰衡に宣戦布告してから約二週間。
最初は気のせいかと思っていた。
普段と同じように彼は接してくれる。
なのに、その態度が、どこか冷たい気がして‥‥。
彼が怒っている気がする。
そう思ってしまうほど、彼の態度の何かが違う。
現にさっきだってそう。
今までの弁慶なら、ゆきを口説こうとするヒノエを止めて‥‥と言うより、やり込めてくれるのに。
『弁慶さんは黙ってて!!これは私たちの問題なんだから!!』
これは言ってはいけない一言だったのだと気付いている。
弁慶の中で、恐らく見えない琴線に触れたのだとも。
(でもね、私だって引き下がれないよ。取り消すことも出来ないもん)
泰衡は、ゆきの大切な人を貶したのだから。
「‥‥ゆき?」
「‥あっ、えーっと‥‥弁慶さん!」
「はい、どうしたんですか?」
ゆきは弁慶の眼を真っ直ぐに捉えた。
徐に、一言。
「‥‥‥大好きです」
「‥‥‥っ!!」
ごめんなさいは言えないから。
せめてこの言葉は伝わりますようにと、想いを込めて。
「ぶっ‥‥‥!!」
「ちょっ!!何で笑うんですか!?」
腹を抱えながら声を殺して爆笑する弁慶が、本気で分からなくなった。
ゆきの不審な視線を浴びながらも、意に介せず笑い転げている。
「‥‥ほ、本当に君はっ‥‥」
「‥‥‥‥もうっ!いいです!!」
すっかり膨れてしまったゆきに気付き、何とか笑いを押し込めて。
弁慶はその柔らかな頬を両手で包んだ。
「君にはもう、全力で降参しましたよ。嫉妬していた僕が馬鹿馬鹿しくなりました」
「へ?嫉妬?」
(一体誰に嫉妬してたんだろ?)
頭の中で巨大な?マークを浮かべるゆきの唇に軽く触れる。
「‥‥は、恥ずかしいですってば」
「‥‥‥僕の為に戦ってくれるんでしょう?」
こくん、と頷けば、弁慶は柔らかく笑って‥‥ぎゅっと抱き締めてくれた。
「‥‥っ」
久々の笑顔が嬉しくて、泣きそうになったけど、何とか堪えたのに。
「大好きですよ、僕のゆき」
潤ませているゆきに満足そうに笑いながら唇を重ねてくるから
‥‥やっぱり泣いてしまった。
前 次