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「弁慶さん!」



ごちそうさま!とダッシュで箸を置いて、弁慶の後を追うため縁に出る。

外に出た瞬間、差すような冷気と風が肌を突き刺した。


寒さを我慢して走るのは、弁慶が向かった筈の私室。

だったけれど‥‥‥途中、暗がりから伸びた腕に捕まり、あれよという間に引き摺られた。



「やだっ!!」

「しーっ、静かにしてください」



穏やかな声。

ホッとして眼を開ければ、真っ暗な中に愛しい人の顔がドアップでこちらを見下ろしていた。



「べ、んけいさん‥?」

「此処なら邪魔が入りませんから。僕に話したいことがあったんでしょう?」

「話っていうか‥‥‥」








泰衡に宣戦布告してから約二週間。


最初は気のせいかと思っていた。


普段と同じように彼は接してくれる。
なのに、その態度が、どこか冷たい気がして‥‥。


彼が怒っている気がする。





そう思ってしまうほど、彼の態度の何かが違う。

現にさっきだってそう。
今までの弁慶なら、ゆきを口説こうとするヒノエを止めて‥‥と言うより、やり込めてくれるのに。




『弁慶さんは黙ってて!!これは私たちの問題なんだから!!』




これは言ってはいけない一言だったのだと気付いている。
弁慶の中で、恐らく見えない琴線に触れたのだとも。



(でもね、私だって引き下がれないよ。取り消すことも出来ないもん)


泰衡は、ゆきの大切な人を貶したのだから。










「‥‥ゆき?」

「‥あっ、えーっと‥‥弁慶さん!」

「はい、どうしたんですか?」




ゆきは弁慶の眼を真っ直ぐに捉えた。

徐に、一言。



 
「‥‥‥大好きです」

「‥‥‥っ!!」



ごめんなさいは言えないから。


せめてこの言葉は伝わりますようにと、想いを込めて。




「ぶっ‥‥‥!!」

「ちょっ!!何で笑うんですか!?」



腹を抱えながら声を殺して爆笑する弁慶が、本気で分からなくなった。


ゆきの不審な視線を浴びながらも、意に介せず笑い転げている。



「‥‥ほ、本当に君はっ‥‥」

「‥‥‥‥もうっ!いいです!!」



すっかり膨れてしまったゆきに気付き、何とか笑いを押し込めて。

弁慶はその柔らかな頬を両手で包んだ。



「君にはもう、全力で降参しましたよ。嫉妬していた僕が馬鹿馬鹿しくなりました」

「へ?嫉妬?」



(一体誰に嫉妬してたんだろ?)


頭の中で巨大な?マークを浮かべるゆきの唇に軽く触れる。



「‥‥は、恥ずかしいですってば」

「‥‥‥僕の為に戦ってくれるんでしょう?」




こくん、と頷けば、弁慶は柔らかく笑って‥‥ぎゅっと抱き締めてくれた。



「‥‥っ」



久々の笑顔が嬉しくて、泣きそうになったけど、何とか堪えたのに。



「大好きですよ、僕のゆき」



潤ませているゆきに満足そうに笑いながら唇を重ねてくるから

‥‥やっぱり泣いてしまった。







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