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「‥‥‥あれから、弁慶さんもあんまり話してくれないし‥‥」

「まだ怒っているのか?」


九郎の問いに、ゆきは力なく首を振る。


泰衡に「やっつけてやる」と、どうでもいいように無視をされながらも宣戦布告をした。
その後、いつの間にか退室したらしい弁慶の元へ走り事情を説明しながら謝った。

「ゆきらしいと言うべきでしょうね」と言って笑って、抱き締めてくれたけれど‥‥‥。



「怒ってないって言ってくれたけど、どこかよそよそしい気がする」



はぁ、と溜め息を吐く。

その姿が小さく見えて、隣に座る九郎は手を伸ばそうとする衝動と戦った。



「そもそも何故、あれ程怒ったんだ?」

「‥‥‥‥だって」



この話が終わればまた修行再開だな、とゆきに手渡した真新しい刀の鍔を拭きながら、問いかける。

途端にゆきが俯いた。


九郎の位置からその顔は見えないけれど、悔しそうに歪めているだろうと予想できた。

‥‥‥震える肩がそれを物語る。




「ん?聞いてやるから言ってみろ」



頭を撫でてやる。

彼女をどうしても、どうしても放って置けないのは‥‥‥何故なのだろうか。



「だって‥‥‥泰衡さん、弁慶さんのことをけなしたから」

「は?」

「私の事はいいんだよ!でも弁慶さんに、地に落ちた、とか趣味が悪い、とか‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

「弁慶さんを悪く言うことだけは許せない。絶対、絶対、撤回させてやるって思ったの」

「‥‥‥そうか」




まだ初心者に毛が生えた程度の剣の腕を持って、平泉の総領と「決闘」する理由。

それは恋した男への侮辱を、怒る所以のこと。




ゆきの頭に手を置いたまま、九郎は空を仰いだ。











靄が懸かったようなこの感情は何だろう。




女人と意識せずに居られた、唯一のゆきに対しての、この感情は。









「た、確かに一瞬はイケメンだ〜って思ったけど、そんな自分すら腹立つよ」


と、ぼそっと呟いた一言すら気付くことなく、九郎は考え込んでいた。















act6.意味なんて無くてもいい

20081014

 


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