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「‥‥‥って事で御館に会ってから一週間が経ちましたが、何で私はここにいるんでしょうか?」

「自業自得だろうな」



慣れない刀によって出来た手の平のマメにふぅふぅと息を吹きかけて。

独り言に律儀に答えた九郎をじろりと睨む。



「ふ、普通は本気にしないと思うよ?」

「‥‥‥ああ、そうだが」



いや、彼ならば本気‥‥‥と言うよりも、ゆきの心意気に機会を与えてやったつもりなのかも知れない。



「お前が悪いんだ。出来る事と出来ない事をしっかり考えて物を言え」

「そんな事言ったって!き、気持ちはあるんだよ!あの宣言は嘘じゃないもん」

「だからと言って挑発に乗るなと、弁慶も朔殿も俺だって何度も言ってきただろう!」



今や立派な歩くトラブルメーカーと化した少女に、九郎は深い深い溜め息を吐いた。


























秀衡と面会した、あの日。



何だか必死になっているゆきが「私たちに出来る事はありませんか!?」と大張り切りでいた時に、廊下を規則正しい足音が響いた。


案の定、足音の主は九郎や弁慶の旧知の男・藤原泰衡。


「久しいな、泰衡」


九郎の言葉に眉をぴくりと上げ、不機嫌そうに室内をぐるっと見渡して‥‥‥更に眉を上げた。



「何だこれは」

「はっ!?」


これ、と指差されたゆきがこれまたぴくりと眉を上げる。

勢い余って彼女を膝に乗せた体勢のまま、弁慶はその背中を宥めるように撫でた。



「久しぶりですね、泰衡殿。彼女は 「ふん、弁慶殿も地に落ちたな。何処の馬鹿か知らんが、平泉の当主の御前で女一人御せぬとは」

「‥‥‥‥何て?」



ゆきの表情が険しくなる。
睨みつける視線を受け、倣岸な笑みを放つのは泰衡。




「まぁ尤も、見るからにその様な才覚も持ち併せてなかろう女だが。弁慶殿の趣味はその程度か」




その一言でゆきのこめかみ辺りが盛大な音を立てた。



「泰衡!ゆき殿は我が客人。無礼を働くで 「‥っんだってぇぇ!?」


秀衡が息子を嗜めようとする言葉を引き裂いて、ぶち切れ状態のゆきが立ち上がった。



「ゆき、落ち着きなさい」

「さっきから聞いてたら何ですかあなたは!いきなり失礼でしょ!謝って下さい!!」

「ほぅ、礼儀も知らぬが減らず口を叩くだけの能はあるのか」

「止めろ泰衡!ゆきに失礼だぞ」

「ちょっと九郎さん!この人があの御館の息子!?こんな仏頂面の失礼男が!?あのいい人の息子!?」



びしっ!!と綺麗に腕を伸ばして、涙を浮かべながら「失礼男を」指差しているゆきに、弁慶は額を押さえた。

‥‥‥こんな時の彼女はとんでもなく頑固なのだ。



「ゆき!確かに泰衡は仏頂面だ。だが良い所もあるんだ」

「信じられないっ!」

「銀、この感情に走った煩い者をつまみ出せ」

「泰衡様‥‥‥」


収集がつかなくなってきた。

暫く様子を見ながらゆきの怒りを吐かせてやった弁慶だが、ここらで引き止めるしかないと、溜め息を一つ。



「ゆき、落ち着きなさい」

「弁慶さんは黙ってて!!これは私たちの問題なんだから!!関係ないもん!」



立ち上がり、彼女を背後から抱いて落ち着かせようとしたその腕を、思い切り振り払われた挙句に、この一言。



「‥‥‥‥‥‥‥成る程。では君達の問題は君達で解決してくださいね」



ゆらり、と背後に黒い陽炎を、間が悪い九郎は見てしまった。



「九郎」

「な、なななんだ!?」



とんでもなく笑顔が怖い。

冷や汗を掻きながらゆきを見れば気付かないらしい。
「あんたを叩きのめしてやる!!後日な!!」とぎゃぁぎゃぁ噛み付いては「くだらん」と鼻で笑われ更に切れていた。



「何処を見ているんですか?」

「い、いやすまん!何だ弁慶!?」

「どうやらゆきは総領殿と決闘を果たすそうですから、しっかり特訓してあげてくださいね」

「何故俺が」

「‥‥九・郎?」

「‥‥‥わ、分かった」

「では、関係のない僕は退室しますね」



にこにこにっこり。

一番いい笑顔を向けられて九郎は陶然と‥‥‥‥‥ではなく、戦慄した。




他の者は何をしているのだろう。と振り向いてがっくりと肩を落とした。






「さり気なく失礼なのは元宮も同じじゃないか?」

「あ〜、あれは無理だな、譲。あれはトランス入ってるぞ。何も聞こえてねぇって」

「将臣殿。とら‥んす、とは?」

「えっとな、敦盛。それはだな」

「あれ〜?とらんす、って、何かの部品の名前だって将臣くん言ってたよね〜?」

「あ、それはですね、景時さん。トランスには二つ意味があって、そもそもTranceって英語で発音するんですよ!語源は‥‥え〜と‥‥語源は‥‥‥‥譲くん?」

「‥‥‥春日先輩、中途半端に覚えたままですね。期末テスト前に俺が教えた事を二年も覚えてくれたのは嬉しいですけど‥‥」

「あら、譲殿は確か望美より学年、と言うものが一つ下なのよね?譲殿より高度な勉強をするのだと言ったのは貴女だけれど‥‥‥どうして譲殿が教えられるのかしら?」

「うっ!!」

「いいんだぜ、望美。姫君に一番大切なのは癒しの微笑みだからね」









その後、「いい加減にせぬか泰衡!」と秀衡の張声が響くまで、室内は相当喧しかった。



   


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