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(恥ずかしいよ。もう)
朝起きたら昨日と同様、恋人が枕元に。
その笑顔がなんだか怖くて「どうしたの?」と聞けば、強引なキスを延々とされて。
‥‥‥すっかり夢見心地になった頃に、弁慶の傍を離れない約束をさせられたゆきは、泣きそうになっていた。
昨日、ゆきを連れて帰ってくれたのが弁慶だと聞いた。
それ以上は何も言わないけど、彼は知っているんだろう。
重衡と居た時に気を失ったこと。
彼にだけは嫌われたくない。
嫌だといえないのは、そんな負い目があるから‥‥‥。
「ほら、君は僕だけを見て‥‥‥」
「‥‥‥はい」
自分にだけ聞こえるように、そっと囁かれた声は甘い。
それだけで、ゆきの全てを弁慶に染めてしまう。
こんなに愛しいのは、弁慶だから。
彼が自分を映してくれるなら、たとえ誰に見られてもいい。
なんて思う、恥ずかしい自分すら存在してしまう。
「ずっとこうして、君を閉じ込めてしまいたいですね」
「‥‥‥弁慶さんのバカ」
むっとするゆきを、弁慶が優しく愛でていた。
「ふふっ。ほら、口を開けて‥‥‥」
その眼差しに見惚れながら、ゆきが渋々と弁慶の手の匙に口を付ける。
彼自ら作った彼女専用の薬草粥。
きっと、薬湯と同じで苦いはず、そう覚悟して飲み込んだけど。
「‥‥‥あれ?おいしい」
意外だ、という顔をする恋人に何かからかってやろうとして、止まる。
「何だあいつら?一種の羞恥プレイかよ」
「将臣くん!それ禁句だから」
「兄さん、言葉を慎めよ」
「はは、仲がいいのはいい事じゃないかな〜‥‥‥」
将臣に望美と譲が冷たく指摘して、それから泣きそうな景時の声。
「弁慶殿」
これ以上ここでゆきを『愛でて』いれば、恐らく朔の怒りを買うかもしれない。
現に朔から現在向けられている視線は、かなり呆れを含んでいるから。
それは困る。
彼女を敵に回すのは得策ではない‥‥‥これから、色々と。
(‥‥僕も随分と臆病になったということか)
ゆきの心が自分から離れることを、恐れているわけでは‥‥‥ない。
昨日の怒りは重衡に対する嫉妬と、彼に引き合わせた望美に対するもの。
ただ、望美が親切心での行為なら、ほんの少し可愛らしい報復なんかをして、終わるだろう。
けれどそうではない。
白龍の神子から感じたのは‥‥‥‥必死。
「‥‥‥ゆき、口元に付いていますよ」
「へ?どこ?‥‥‥ひゃっ」
指摘されたゆきが指で頬を拭う前に、弁慶が舐め取る。
「おいっ!」
外野の言葉など聞くつもりはなくなった。
「‥ゆき」
「ちょ、待‥‥んっ」
真っ赤なゆきに今度は唇を重ねる自分。
立派な確信犯だと、思う。
彼女に触れられるのは自分だけ。
誰にも引き離すことなんて許さない。
そう、これは立派な宣戦布告。
過去と未来を行き来できる少女と、
こちらに向かって近づく足音の主への‥‥‥。
act5.運命への挑戦状
20080909
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