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将臣と敦盛、その他の平家の面々に用意された滞在の場所は、高館から離れている。
その日将臣は敦盛と共に、こっそりと源氏の面々に会いにやってきた。
朝も早い時間。
「ついでだから朝メシも食ってこうぜ!譲の手料理も長いこと食ってねぇと、テンション上がんねぇしな」
「いやしかし、突然邪魔しては譲の負担にならないだろうか‥‥?」
「気にすんなって!あいつも兄に会えて喜ぶさ」
(‥‥‥すまない、譲。私には止められないようだ)
と敦盛が心の中で詫びていた事など、上機嫌の男は知らない。
「お、もう皆起きてるのか?今日は早いじゃねぇ‥‥何やってんだ?」
目的の邸に着き、気配のある室に辿り着いたら朝食の最中。
早朝稽古中の九郎とリズヴァーン、それからヒノエを除く面子が揃っていた。
爽やかに挨拶するつもりだった言葉は、途中で訝しむそれへと変わる。
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥あ、敦盛くんと将臣くん。おはよう」
「あ、ああ‥‥」
半泣きなゆきに返事する敦盛も、困惑している。
他は誰も口を開かない。
弁慶の膝上には、ゆきが横向きに座り。
まさに「いちゃいちゃ」しているようにしか見えないから。
「に、兄さん?敦盛も。何だよいきなり」
「‥‥すまない譲。止められず‥‥」
立ち上がった譲に、敦盛は律儀に頭を下げている。
と、ようやく珍客に気付いた、と言わんばかりに弁慶が顔を上げた。
「ああ、おはようございます。二人とも随分と早いんですね」
「いや、つーかお前、何やってんだ?」
聞くな、将臣。
沈黙を守る皆が一斉に思った事は、当の本人には通じない。
皆が呆れつつも眼を逸らしている。
ゆきが真っ赤。
そして問われた弁慶は、とてもキラキラした笑顔を将臣に向ける。
「ゆきの看病です」
「いや、つーか看病になってねぇだろ。ゆきの箸が止まってんだけど」
そこを突っ込むな、将臣。
他人のフリをする一同が内心で思ったが、やはり将臣には通じない。
そして弁慶は更に笑顔だ。
「ああ、本当ですね。ほらゆき、口を開けて下さい」
「弁慶さん、自分で食べるから‥‥‥」
「駄目ですよ。今日一日は何もしないで休むように約束したでしょう?」
「‥だって、恥ずかしいよ」
「‥‥ゆき?約 束 は何でしたか?」
「うっ‥‥‥‥‥‥今日は弁慶さんの約束を何でも聞くこと」
「良かった、覚えてくれていましたか」
「‥‥おいおい。約束っつーか、脅しだろ、それは」
爆弾を落とすな、将臣。
彼らが来る前に、弁慶の無言の圧力を受けていた面々は冷や汗を掻いた。
時、既に遅し。
「‥‥‥ああ、将臣くん。君の右腕にある太刀傷、後で診せてくださいね」
「は?ま、待て弁慶!腕の傷ってお前、去年の話だろうが!」
「何を言っているんですか?傷口は塞がった後が一番怖いんです。医学の基礎ですよ
‥‥‥将臣くん限定ですが」
「‥‥お前っ‥‥‥!!」
(ゆきちゃん、ごめん‥‥‥)
昨日のことで、弁慶は何か考え付いたらしい。
ゆきを抱き寄せる姿は、望美の眼には「虫除け」にしか見えなかった。
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