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「重衡さん、離して‥‥」

「‥‥‥ゆきさん」





あの人の腕が恋しくて

あの人の声が凄く聞きたくなって



重衡さんの腕から逃げようとした。



「お願い、私には好きな 「分かっております」



重衡さんの優しい顔に似合わない位
もっと、もっと、力がこもって‥‥‥息苦しくなる。





「一度、貴女に別れを告げた私に何も語る権利などないのでしょう。ですが‥‥‥」




耳に触れる吐息にゾクッとした。

私はそこがとても弱い。


でも、自分でも気付かなかったことを教えてくれたのは、重衡さんじゃないんだよ。




「‥‥‥暗い意識の底で、貴女を想っておりました」

「‥‥っ」






胸を切り裂かれたようにグッサリと、重衡さんの言葉が圧し掛かった。

反射的に涙が出たみたいで滲む、視界。





同じ言葉を言ったのがあの人なら、幸せな涙が出るのに。


抱き合って、キスをして

言葉一つにドキドキさせられて

見つめられるたびに、好きが溢れて泣きそうになって

愛してる、って言われるだけで溶けそうになって‥‥‥‥




いつの間にか私は、こんなにあの人を好きになっていたんだ。









「‥‥‥やだよ、重衡さんっ」

「‥ゆきさん‥‥申し訳、ありません」


ぎゅっと頭を押し付けられているから見えないけど、何となく分かった。

今の謝罪が、苦しそうだと。





どう言葉をかけていいか迷った、それはそんな時だった。






‥‥‥取りなさい




‥‥‥頭の中で声が響いたのは。




「ゆきさん?」

「痛っ‥‥」



鐘が響くように、声が頭の中を反響していく。

煩いぐらいにガンガンと‥‥‥湧き上がる頭痛。





‥‥‥その手を取りなさい



ゆきが幸せになりたいなら‥‥‥










「や‥やぁぁぁぁ!!」

「ゆきさん!!一体何が!?」





痛みに、正気でいられなくなった私。
重衡さんが支えてくれる腕を感じて。


暗い世界に意識が飛んでいく瞬間、「声」が囁いた。







私にとって、もっとも残酷な言葉を。
















act5.運命への挑戦状







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