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‥‥‥‥どうしたんだろう。

最近の私、なんだか変だ。






時々自分が分からなくなっていると感じたのは




多分、この時から。













act3.ずっと一緒と信じたい






朝日が差し込む。

光が眼に差し込み眼が覚めた弁慶は、褥の中の違和感に隣を見て更に眼が覚めた。

ぼんやりと昨日の夜を思い起こすものの該当する記憶は特に無い。
一瞬、とうとう我慢し切れず襲ったか、と物騒なことを思ってしまったのは寝惚けているからだろう。








隣には、猫のように身を丸め身体を密着させて寝息を立てる恋人の姿。



‥‥‥道理で有り得ないほど暖かく、そしてぐっすり眠れた訳だ。


「‥‥‥君は、僕に襲って欲しいんですか」

「‥‥んぅ‥‥」

「無防備にも程がある、と口が酸っぱくなるほど言って来たのに」


溜め息を吐きながら、ゆきの頬を突付く。
擽ったそうに無防備に身を捩るゆき。
夜着は多少乱れているものの、脱がした形跡など無い。

どうやら、夜中に寝惚けて弁慶の部屋に潜り込んで来たのだろう。


すやすやと気持ち良さそうな眠りの世界の住人の肩を抱き締める。

温もりが心地よい。
しばらくはこのままで居たかったけれど、そろそろ自分も起きねばならない。

それにゆきが寝坊すれば怒り出す人物がいて、朝から京邸は喧騒に包まれてしまう。



「ゆき‥‥いつまで寝ているんですか。もう起きなければ寝坊しますよ」

「ん〜‥‥‥あと二時間‥‥」

「‥‥二時間とは、君の世界の一刻でしたか。随分と豪胆ですね」



ほんの少し、と訴えるならまだ可愛いものの。
相変わらず眠りに関しては随分と貪欲だ、と弁慶はくすくす笑った。



「‥‥ほら、ゆき。起きなさい」




取りあえず声は掛けたけど、やっぱり起きなかった。

だから強引な方法で起こしてやるしかない。




弁慶の片腕はゆきの肩の下に回し後頭を固定させる。

首筋に吸い付いたのはほんの悪戯心と、「牽制」。



「ん‥‥‥」




襟では隠せない赤い情痕に満足する。
今度は空いた手で頬を撫でながら唇を奪った。


口接けは深さを増して行き、同時に手が頬から肩に、肩から背を辿り‥‥‥ゆるゆると腰をなぞらえる。



「あ、んぅっ‥‥‥ん?‥んんんーーっ!?」



息苦しさに目覚めたゆきは、驚きの余り眼が真ん丸になっている。

唇を離せば肩で荒く息を繰り返していた。



「おはようございます。君から夜這いを掛けてくれるなんて嬉しいな」

「‥‥なっ、よばっ‥!?」

「ふふっ。昨夜のゆきは随分と積極的でしたね。そんなに僕が恋しかったんですか?」

「こっ、こいっ!?‥‥‥えっ?えっ?」

「それとも‥‥‥」



混乱しているゆきは、何も覚えてないのだろう。

笑いを堪えながら彼女の身を起こしてやる。
真っ赤な頬に満足して、耳元に唇を寄せた。



「‥‥‥僕が欲しかったんですか?大胆だな」

「‥‥星っ‥?えっ‥‥えええええっ!?違ーーーうっ!!」

「早く部屋に戻って着替えてください。九郎とリズ先生が待ち兼ねてますよ」



絶叫しながら立ち上がるゆきに向かってにっこり笑う。
身を翻して去って行く足音が遠ざかっていくと、弁慶は褥に顔を埋めて笑った。







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