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星光の夜。
夜空は満天の星々で埋め尽くされているから、寂しさは感じない。
生まれた世界の寂しい空とは全く違う、無限の星。
それでいて、確かな繋がりを感じる闇の色。
望美は長い時間上を向いていた。
そうすれば、懐かしさに頬が緩む。
幼い頃、見上げた空の上にはもう一つの国があると信じていたっけ。
雲の上にあるのは、どんな国なんだろうって。
そう、幼馴染達と話していたっけ。
「あ、やっぱり望美ちゃんだった」
「!?‥‥‥ゆきちゃん?」
その瞬間まで気配もなく、突然聞こえた声に勢いよく振り返る。
驚いたけれどすぐにそれが陰陽師のゆきと知り、咄嗟に生まれた緊張を解いた。
「どうしたの?」
「えーとね、望美ちゃんの気を感じたから迎えに来たんだよ。夜道、危ないから」
「危ない‥‥?私が?」
「うん。女の子だもん」
事も無げに答えるゆきに、望美はこっそり嘆息した。
此処は梶原邸から少し距離を伸ばした河原。
確かにゆきの言う通り、夜更けに女が一人では心許ないだろう。
だけど。
(ゆきちゃんは分かってないなぁ)
誰がどう見たって、剣の腕に覚えがある望美よりゆきの方が危なっかしい。
それに、溜息を吐く理由はもう一つ。
「ありがとう。でも、弁慶さんに怒られるよ?」
「大丈夫。五条邸に泊まるって聞いたから」
だから来たんだよー。
ゆきに対して過保護で、怒らせると龍神より怖いと認知されている人物の不在を告げられると、望美は更に肩を落とした。
「もう、危ないのは私よりゆきちゃんの方なんだよ。気をつけてね」
「そんなことないよ。陰形の術使ってるから誰にも気付かれないし。出てくる時も皆気付かなかったよ?」
どうやら朔達に見つからぬ様、気配を絶って来たらしい。
「ゆきちゃん‥‥」
「だって、望美ちゃんと二人だけで話をしたくて来たんだもん」
「話?」
深く頷いて顔を上げたゆきの瞳は、真っ直ぐに望美を射抜く。
(黙ってきたって事は、誰にも‥‥弁慶さんにも聞かれたくない話、なんだろうけど)
「白龍の逆鱗には時間を超える力があるって、本当?」
「‥えっ‥」
その瞬間、望美は眼を見開いた。
刹那頭をよぎったのは、笑みを絶やさない軍師の顔。
だがすぐにその可能性はないと思い直す。
(あの人がわざわざゆきちゃんを危険に晒すようなこと、言うわけないよ)
もしそうなら、現在彼の目を盗んでまで望美に「尋ねて」来るのはおかしい。
彼以外の真実を知る者全てに当て嵌まる。
逆鱗の持つ真の力を知る者は望美とリズヴァーンと弁慶、後は白龍本人のみ。
その誰もが口にするとは思えない。
‥‥‥彼女は、何も知らない筈なのに。
何故。
act21.空の向こうで星達が泣いてる
眠れないまま朝が訪れた。
「‥‥ん」
瞼を擦ってから、ゆきは大きく一つ欠伸をする。
昨日は結局一睡も出来なかった。
あの後の、望美と話した内容も、睡魔を奪った原因の一つではあるが。
(‥‥寂しくて眠れない、とか贅沢だよね)
隣に弁慶がいないのが寂しい。
人の体温や、誰かと肌を寄り添わせて眠ること。
一度覚えてしまうと、手放せなくなってしまうんだろうか。
「‥よしっ!」
落ち込んでいても埒が明かぬ、と両手で頬をぺちぺちと叩き、ゆきは元気よく立ち上がった。
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