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眼が覚めたら真っ先に飛び込んだ、金色の輝き。
少しの間ぼーっと見て、それが燭の明かりで照らされた髪の色だと気付く。
リズヴァーンとも違う。
こんなに綺麗な色は一人しかいない。
(弁慶さん‥‥?)
なら書物を読んでいるらしい後姿は、誰よりも恋しい彼のもの。
身じろぎする気配に気付いたのか、彼がこちらを振り返った。
俯き加減だから、前髪の影が顔の半分を隠している。
表情が窺えないのが残念だなぁ、とぼんやり思う。
「‥‥‥あの」
「眼が覚めましたか?」
(朔に頭を拭いてもらってたよね?)
自問してすぐに答えが出た。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
寝ぼけたままぼんやりと辺りを見回せば、そこは自分の部屋でなかった。
かといって見知らぬ部屋でもなく、寧ろよく知っている。
「‥‥弁慶さんの部屋?」
「ええ。君の部屋よりも近いので」
「‥‥ありがとう」
夢現に感じた、自分を壊れ物のように抱き上げる腕。
‥‥やっぱりあれは彼だったのだ。
そう思うと嬉しくて、自然と笑顔になる。
「起きたら話があったので、ここに運んだ方が好都合だったんです」
「‥話?何だろ?」
「心当たりはありませんか?」
「心当たり‥‥?ないですけど」
起き上がろうとしたゆきの肩は、伸びてきた腕によって再び褥に押し付けられた。
「えっ?あの、起きれないっ‥!」
「‥‥‥こうされるのは嫌、ですか?」
「い、嫌とかそんなんじゃなくて‥」
反射的にじたばたもがくゆきを押さえつけるのなんて、簡単なこと。
男と女では体力が違うのだから。
唇が触れそうな位置まで弁慶が顔を近付ける。
こちらを見上げるゆきの頬が、唇が、赤く色付いて‥‥‥潤んだ眼がぎこちなく逸らされた。
「嫌じゃなくて?」
「えええっと、えっと‥‥‥何だか落ち着かなくてっ」
これはいわゆる、押し倒された状態。
それ位は、幾らなんでもわかる。
流石にこの状況を理解できないほどには子供じゃないのだから。
‥‥‥でも、未だにキス以上の関係には至ってなくて、こんなシチュエーション自体も数えるほどしかなくて‥‥‥。
慣れない。
だからドキドキして落ち着かなくなる。
(からかわれてるのかな、私‥‥)
弁慶がわざとそうしてるんだと気付いているだけに悔しくて、涙目になった。
そんな彼女を見て、弁慶は意地悪な光を宿した眼に笑みを浮かべた。
「落ち着かない、ですか。僕の前で落ち着かなくて、他の場所なら落ち着くとでも?」
「‥‥や、ぁっ‥‥‥意味、わかんなっ‥‥」
耳元に吹きかけられた息が、ゆきの身体を、びくっと揺らしてしまう。
‥‥自分の身体なのに、未知の領域に持って行かれそうな気がして怖かった。
「分かりませんか?では、質問を変えましょう。君はさっき、何処で寝ていましたか?」
「‥‥‥玄関ですけどあれは‥ 「もう一つ」
ゆきが説明しようとした唇を、弁慶の指が塞いだ。
怖いくらいに真剣な眼が見下ろしてくる。
(お、怒ってる?なんで?)
「‥‥‥君には警戒心がなさ過ぎる、そう何度も教えていたはずですが」
「え、はい。何度も聞いてるけど‥‥?」
あくまでも首を傾げる彼女には、弁慶の言う「警戒心」がよく分かってないらしい。
心を通わせて半年。
あれほど何度も言っているのに、ゆきはまだ無邪気に笑う。
景時や九郎、敦盛‥‥彼女にとってはただの家族なのだ、全く何も思ってないことくらいは分かっている。
ゆきが想っているのは、自分だけしかいない。
そうと知っていても心中に渦巻く嫉妬。
それは、彼女の男として当然の権利なのだと思う。
「あんな場所で眠ってしまって、あんなふうに君の寝顔を晒してしまって‥‥‥僕が嫉妬するとは思わなかったんですか?」
「‥‥え?だって、ここにはそんな悪いことする人はいな‥‥」
‥‥鈍すぎるその唇から、これ以上言葉を紡がせたくなくて、自らの唇で塞いだ。
「‥べんけ、さん‥‥?」
理解していない。
そうして見上げる眼差しが、とてつもない色香を含んでいることを。
普段が幼さを感じさせるだけに、ふとした拍子に見せる大人びた仕草。
それに惑わされるのは、何も自分だけではない。
「君の可愛い寝顔を見せるのは、僕だけ‥‥でしょう?」
「‥‥‥はい」
いっそこのまま抱いてしまおうか。
大切にしたいから、随分と待った。
ゆきの覚悟が出来るまで。
ヒノエ辺りが聞けば腰を抜かしそうなほど、彼女に対しては清いままでいる。
‥‥とっくに限界を超えているけれど。
口接けを深くしていく。
互いの息が溶け合うほどに時間をかけた。
舌先で唇をそ‥っとなぞって、痺れる快感を与えた次に
微かに開いた唇に、覆いかぶさる。
舌を突付いて絡め、反応を確かめながらゆっくりと‥‥‥焦らすように口接けだけを。
焦らずに深めていけば、ゆきの息に小さく喘ぎが混じってくる。
完全に弁慶の為すがままになったのを確認してから、唇を離した。
「え‥?」
急に離れた熱を恋しがる、陶然としたゆき。
完全に堕ちるまであと一息といったところか。
「‥‥‥ゆき」
「は、い‥‥」
「もう、いいですね?」
僕がどれ程君を想うか。
情熱の全てを、今から見せてあげよう。
ゆきの微かに震える瞼が、そっと閉じられた。
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