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スッキリと目覚めて、大きく伸びをする。


「んー、よく寝た!」


まるで冬眠を終えたように、何だか随分長い間眠っていた気がする。

身体が軽い。
疲れという疲れが綺麗さっぱり抜け落ちて全身に活力が満ち溢れているような、そんな爽快さだ。

そんな事を思いながら部屋の中を見回した。


「あれ?いつの間に戻ってたんだろう」


いる筈のない怨霊が現れて調伏した辺りまで覚えているが、その後の記憶がない。
一体どうやって梶原家の京邸まで帰ってきたのか。
ほんの暫くだけ考えてみたものの、全く思い出せず。



───そういえば、長い夢を見ていた気がする。



「うーん?‥‥‥ま、いっか。ごはんごっはんーっと!」


がっつり食欲を訴える可哀相な腹具合を慰めるべく、ゆきは元気よく起き上がった。






act25.始まりの来ない終わりがやって来た







「おはよう九郎さん」

「おはようってもう昼だ、ぞ‥‥‥ゆき!?」

「え?はいゆきだけど」


(そんなに驚かなくてもいいのになあ)


空腹を訴え厨へ向かう途中に出会った人物が眼を丸くしているから、ゆきはきょとんとした。
栗色の娘の眼差しを受け止められなかったのか、ふいと逸らされる。


「‥‥いや、その、体調はどうだ?」


いつもよりぎこちない口調で問われた。


「ばっちり絶好調です!あ、そういえば私も聞きたいことがあるんだけど」

「な、何だ?」

「私、昨日どうやって帰ったの?」

「昨日‥‥‥?」


逸らされていた眼差しが戻ってきたかと思うと、九郎は思い切りを丸くしている。
何かおかしな発言でもしたのだろうか、と考えたが別段変わった質問でもない。


「朔と市に出かけたら怨霊が出て来たのまで覚えてるんだけど、その後‥‥‥って!そうだ何で今さら怨霊が!?」


そう。
何故、今になって怨霊が現れたのだろう。


「なっ!?落ち着けゆき!」

「あ、ごめんなさい」


思わず締め上げかけた胸倉から、手を離す。
危うく絞殺するところだった。

身の危険を感じたのか、九郎は着物の襟元を整えながら溜息を吐いた。


「‥‥‥話なら俺よりも適任な奴がいるか。来い、腹が減ってるだろう?説明がてら飯でも食え」

「あ、うん。もうお腹ぺこぺこで!何でも食べられる気分だよ」

「だろうな。一週間も寝ていれば当然だ」

「‥‥‥いっ、一週間っ!?」


九郎の爆弾発言に愕然としたゆきだった。


 


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