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「前の白龍は、龍脈に還る前に、力の一部を残していた。‥‥‥ううん、違う」

「‥‥‥残していたのではなく、人為的に残させられたのではないですか?恐らくは、先代の白龍の未練を見抜いた人物によって」

「‥‥‥うん」


難しい説明が出来ない白龍に、弁慶が助け舟の形でこれまでに辿りついた持論を出す。
ひとつひとつ言葉を飲み込んでから頷いた小さな龍神。


(やはり、そうだったのか)


弁慶の予想は当たっていた。
彼が肯定したのだから間違いない。
当たったからと言って、喜びは皆無だ。
弁慶の前に提示されたのは途方もなく厳しい運命なのだから。


「ちょっと待ってよ弁慶。白龍は龍神の片割れだよね?最高位の神の力を、人間がどうこうできるなんておかしくないかな?」

「龍神の力を宿すには、逆鱗ほどの強力な媒体が必要だ」

「リズ先生の仰る通りだ。それ程の物を、政子殿や平家側がこれまで気付かなかったとは思えないが‥‥‥」


陰陽師らしく気の流れに敏感な景時が「あり得ない」と否定する。
それにはこれまで沈黙を守ったリズヴァーンや敦盛も頷く。
笑い飛ばせるものならば、弁慶だってそうしたいのは山々だが。


「媒体は存在しました。かつて、人でありながら神に近いと評価されていた人物が」

「神に近い‥‥‥?神子なのか?」


此処まで手掛かりを与えられて、それでも答えを導かない九郎に対して苦笑を浮かべた。


(彼も薄々は気付いているけれど、心が拒否しているのでしょうね)


言葉遊びや押し問答を展開しても意味がない。
時間の無駄だ、と弁慶は口を開く。


「媒体となったのは、人の身でありながら人体を創造した稀代の陰陽師、安倍晴明殿しかいません。彼ならば、神の力を宿したまま転生する事だって可能でしょう」

「安倍晴明?‥‥‥まさか」


弁慶達だけでなく、未来からやってきた譲ですら知っていたというその名前。

稀代の陰陽師。
彼以上の存在は現れぬと書に記される程の。
星の位置で運命を読み、日輪と星の加護を受けた土御門家の先祖。


「安倍晴明って確か、元宮の師匠の前世‥‥って聞いてますが」

「ええ、譲くん」

「それに、ゆきちゃんのお父さんを生み出した人‥‥‥?」

「はい」


譲と望美に頷きを返す。


「そんな‥‥‥」


再び沈黙が訪れた。
導かれた真実は重く、誰もがそれを口にすることを恐れている。

何故なら、それはあってはならない事態だから。


「郁章殿は安部晴明の生まれ変わりであり、その身に先代の白龍を宿している。現当主が長年封印していたのは、古の陰陽師の力ではなく、龍神そのものだったと考えられます」


以前、ゆきが言っていた。
『師匠が封印を解いたら、片方の眼の色が赤いんだよ』と。
封印を解いたのは、郁章自身であったらしい。
既に封印を解いた事実があるから、彼女は眼を見ているのだ。

───既に、先代の白龍はこの世に現れている。

それに対し、今まで何も反応のなかったゆきが、ここ一年程で時折不調を訴えるようになったのは‥‥‥目覚めかけていたからだろう。


「白龍。以前、ゆきが土御門家に軟禁と言った形で囚われた際、恐らく強力な呪を掛けられたのではありませんか」

「‥‥うん。だから私も気付いたよ」

「呪‥‥?あの子が、神子になってしまったのが、呪なの?」


呆然と呟くのは朔の声だったか。

















「名を呼んでごらん、ゆき」


呼んじゃだめ!
わたしは、わたしだ。
わたしじゃない誰かに染まってしまわないで。



「お前だけが私の光だ。ゆき、───私の神子」


お願い‥‥‥。



「‥‥‥ふみあき」



口にした瞬間、眩い光が生まれた。
得も言えぬ懐かしさと、震えるほどの感動がこの身を強く貫く。

ああ、いとしいひと、こいしいひと。



「郁章」



‥‥‥そう、郁章。

安倍郁章。



待っていたの。
ずっと会いたかった、わたしの、かみさま。












act24.君だけが僕の生きる希望
20111107


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