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「君は?‥‥‥ああ、君は『識っている』んだね。元来その子は私のモノだと」


緊迫した空気の中、望美は郁章の視線の先に立つ『彼』に眼を向けた。


(ゆきちゃんがお師匠さんの?そしてそれを白龍が知ってる‥‥‥何の話なんだろう?)


ゆきの翳した呪符から生まれたあの光。

白く、眩い光。
あの光は望美も知っている。
そう、ゆきから生まれた事を不思議だと思えるほどには。


「‥‥‥うん。しっているよ」


郁章の問いに答えた白龍の声は、年端もいかない子供のもの。
けれど彼が見た目通りの歳でない事は、この場では周知の事実。
問いを投げた郁章も幼子の正体を知っているらしい。
そうか、と満足そうに頷くと、辺りを見回し、一言。


「また改めて引き取りに伺おう。それまでその娘を頼むよ」


一方的に爆弾を落として、郁章は去ってゆく。


(‥‥‥ゆきちゃんはモノじゃないのに)


話は後で、今はゆきを寝かせるべきだ、と至極尤もな意見を発したのは誰だろうか。
郁章の背中を睨みつけていた望美には知る由もなかった。











梶原邸に到着し、眠ったままの娘の為に褥を用意した頃には、外はすっかり闇に包まれていた。
ざあざあと軒に打ち付ける雨が、静寂に満ちた室内に音を届ける。

穏やかに眠る娘にはもう、苦悶の表情はない。

苦痛はもう感じていないという事実。
それだけが、身体に異常が無いか診察を終えた弁慶を安堵させるものだった。


「君は僕が守りますから」


柔らかく白い手を片手で包み込み、そっとくちづける。

君を守る。
その言葉を、思えば初めて出会った時から何度も口にしていた。

真実守ろうとした為に、ゆきの心を傷つけてしまったこともある。
彼女の自分に向けられた恋慕に気付きながら、捨て置くつもりであったことも。
離れるべきだと思っていた。
生かす為に、この世を守護する存在を滅ぼすつもりだった。

‥‥‥結局、自分は間違っていた。
最愛の存在を永遠に失うところだった。

殺す筈だった望美が与えてくれた希望、時を遡る『奇跡』がなければ。


「もう、繰り返しません。守ってみせる」


誓った言葉を刻みつけるように、その手を額に当てる。


「ねえ、ゆき。僕は───」


ひどく小さな声音で告げるべきことを告げた後、手を褥の中に仕舞うと弁慶は立ち上がる。

口元に浮かぶ笑みはどこか酷薄で、戦場でよく見かける軍師のものだった。

 
 


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