(2/5)
「君は?‥‥‥ああ、君は『識っている』んだね。元来その子は私のモノだと」
緊迫した空気の中、望美は郁章の視線の先に立つ『彼』に眼を向けた。
(ゆきちゃんがお師匠さんの?そしてそれを白龍が知ってる‥‥‥何の話なんだろう?)
ゆきの翳した呪符から生まれたあの光。
白く、眩い光。
あの光は望美も知っている。
そう、ゆきから生まれた事を不思議だと思えるほどには。
「‥‥‥うん。しっているよ」
郁章の問いに答えた白龍の声は、年端もいかない子供のもの。
けれど彼が見た目通りの歳でない事は、この場では周知の事実。
問いを投げた郁章も幼子の正体を知っているらしい。
そうか、と満足そうに頷くと、辺りを見回し、一言。
「また改めて引き取りに伺おう。それまでその娘を頼むよ」
一方的に爆弾を落として、郁章は去ってゆく。
(‥‥‥ゆきちゃんはモノじゃないのに)
話は後で、今はゆきを寝かせるべきだ、と至極尤もな意見を発したのは誰だろうか。
郁章の背中を睨みつけていた望美には知る由もなかった。
梶原邸に到着し、眠ったままの娘の為に褥を用意した頃には、外はすっかり闇に包まれていた。
ざあざあと軒に打ち付ける雨が、静寂に満ちた室内に音を届ける。
穏やかに眠る娘にはもう、苦悶の表情はない。
苦痛はもう感じていないという事実。
それだけが、身体に異常が無いか診察を終えた弁慶を安堵させるものだった。
「君は僕が守りますから」
柔らかく白い手を片手で包み込み、そっとくちづける。
君を守る。
その言葉を、思えば初めて出会った時から何度も口にしていた。
真実守ろうとした為に、ゆきの心を傷つけてしまったこともある。
彼女の自分に向けられた恋慕に気付きながら、捨て置くつもりであったことも。
離れるべきだと思っていた。
生かす為に、この世を守護する存在を滅ぼすつもりだった。
‥‥‥結局、自分は間違っていた。
最愛の存在を永遠に失うところだった。
殺す筈だった望美が与えてくれた希望、時を遡る『奇跡』がなければ。
「もう、繰り返しません。守ってみせる」
誓った言葉を刻みつけるように、その手を額に当てる。
「ねえ、ゆき。僕は───」
ひどく小さな声音で告げるべきことを告げた後、手を褥の中に仕舞うと弁慶は立ち上がる。
口元に浮かぶ笑みはどこか酷薄で、戦場でよく見かける軍師のものだった。
前 次