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六波羅に着くと、目立つ三人組が、弁慶の元へ走って来た。
まるで夫婦と子供のような取り合わせだ。



「随分遅かったのね!」

「すみません朔殿、思ったより時間がかかってしまいまして‥‥‥‥おや?望美さんがいませんね」



確かに、辺りを見回しても紫苑色の長い髪が見当たらない。



「そうなんです、ここについてすぐに、走り出してしまって‥‥はぐれてしまったんです」



弁慶に答える譲は心配で、居ても立ってもいられないのだろう。
しきりに辺りを気にしている。



「大変!探さなきゃ!」

「大丈夫だよ」



走り出そうとしたゆきの手を、白龍が掴んだ。

振り返る彼女ににっこりと笑いかける。
その、清らかな笑みを見るとこちらまで笑ってしまうのは、彼が神だからだろうか。



「大丈夫、離の八卦を持つ、天の朱雀が神子を守ってるよ」



(天の朱雀?‥‥‥離の八卦ってことは、『炎』の象徴‥‥)



ふと一昨日出会った、赤い髪を思い浮かべた。



(まさか。そんな偶然ある訳ないか)














「先輩!見つけた!」

「望美!」



ゆきには解らなかったが、譲は望美を見つけたのだろう。
白龍の手を繋いだ朔と、三人で全速力で走り出した。


(望美ちゃんの事になると、ホント必死なんだから、有川くん)


自分も心配したくせに綺麗に棚に上げて、思わず苦笑した。
望美は譲が向かったから、もう大丈夫。



「ゆきさんは‥‥」

「はい?」

「‥‥‥いえ、行きましょう」



望美捕獲は譲達に任せて、ゆっくりと歩いた。

さっきまで走り詰めだったので疲れていたのだ。



(体、鍛えなきゃヤバいかも‥‥)



隣の弁慶を見てつくづく思う。
彼は、息一つ乱していなかったから‥‥‥。








二人が望美達の元へと辿り着いた時、彼らは既に和やかな雰囲気だった。



「‥‥よろしく、オレの神子殿」


(あ、この声はヒノエだ‥‥)


ゆきが見覚えのある赤い髪を見つけたと同時に、隣の弁慶が声を発した。



「良かったですね、望美さん」



妙に嬉しそうな弁慶。
それに引き換え、彼に気付いたヒノエの顔はかなり渋面だった。



「‥‥まさか、あんたも八葉ってわけじゃねぇよな?」

「君には残念ながら、そのまさかなんです」



(弁慶さん、凄く嬉しそう‥‥)



まるで玩具を見つけた子供の様な目をしている。

ヒノエがげんなりした表情で弁慶に言い返そうとして、隣のゆきにようやく気付いた。



「‥‥お前、ゆき?」

「やっほー」



びっくりしたヒノエに、ゆきは軽く手を振る。

ヒノエが数歩進んでゆきの前に立った。



「まさかこんなに早く再会するとはね」

「まさかヒノエが八葉だなんて、思ってもみなかったよ」

「‥‥お前は?」

「望美ちゃんの友達だから」

「ふぅん。ま、よろしく」

「おうともよ!」

「‥‥二人ともどこで知り合ったの?」



望美が不思議そうに聞いてきた。

その問いも当然だろう。
どう考えても、全く接点のない二人なのだから。



「この前、六波羅で呪詛を探した時に案内して貰ったの」

「迷子になっていたからね、この姫君は」

「‥‥それを言わないで下さい」



ヒノエの腹に一発決めようとしたら軽く躱された。

やはり体をもっと鍛えねば、と改めて思う。



「元宮まで助けてくれたのか」

「ありがとう、ヒノエ殿」

「まぁ、ゆきも女の子だから。手助けするのは当然の義務ってね」



(私も女の子、って失礼な)



一応は女、という意味なのか。








「‥‥‥ゆきさん?」








ゆきの隣に、重い空気を発生させる人物がいた事を、すっかり失念していた。

恐る恐る見上げると、満面の笑顔。
その実、ちっとも笑っていない笑顔だった。



(ひいぃぃぃっ!!)



「そういえば、ヒノエの事を黙ってましたね?」

「いや、一応言おうと思ったんですけど、ヒノエにも事情が」

「駄目ですよ?ちゃんと言わなきゃ。後々問題になると困るでしょう?」

「‥‥ごめんなさい」

「なんだよそれ?オレが問題起こしたみたいじゃん」

「今回は、たまたま、何もなかっただけかも知れないでしょう?」

「あんたのような腹黒よりは何もしないと思うけど?」

「言いますね、ヒノエ。僕は頭がいいから問題を起こしませんよ。君の方こそ気をつけなければいけないようですが」












「‥‥放っておいて、帰ろうか?」


望美が呆れた様に、言い合う二人を眺めて言った。
声音とは反対に懐かしむような微笑を口許に浮かべている。



「‥‥いいんですか、春日先輩?」

「いいよいいよ。あの二人、いつもの事だもん」

「いつもの事って?望美、二人と知り合いだったの?」



朔が訝しげに問う。
確かに、ヒノエとはつい先程が初対面の筈なのに、望美の言い方は変だと、ゆきも思う。



「え?」



望美は一瞬、きょとんとした顔になる。けれどすぐに、それがどういう意味か判り物凄く慌てた。



「‥‥あ、あのね!何だか二人とも親密な雰囲気だから、つい!初めて会った気がしなくて!!」



見ていて痛々しいまでの慌てっぷりに、朔だけでなく、譲やゆきまで首を傾げた。








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