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本日のご予定は。
「六波羅に行こう!」
「六波羅‥‥ですか?また唐突ですね、望美さん」
「先輩、六波羅は治安が悪いんです。そんな所に行くのは危険‥‥」
「でも行かなきゃいけないから!」
望美が行きたいと言って、譲が危険を理由に反対する。
定着した二人のやり取りを、周りは放置することにした。
「いつもながら飽きないな、あの二人は」
「望美ちゃんと有川くんは、あっちでもあんな感じだったよ」
「結局、最後には六波羅に行く事になるのに‥‥‥譲殿も過保護ね」
「?過保護‥‥?譲が心配するのは、過保護なの?」
きょとんとして尋ねる白龍の頭を、朔は笑いながら撫でた。
「僕達も行く事になりますが‥‥九郎?」
「ああ、俺と景時は用があるから無理だな」
「そうだね〜」
当然の如く譲は押し切られて、六波羅行きは決定した。
「ゆきちゃん?どうしたの?」
朝食を終え出発するまでの間、廊下を歩いて望美はゆきを見掛けた。
何かを探しているように見える。
「‥‥ううん、何も‥‥‥」
「リズ先生なら大丈夫。困った時にはきっと来てくれるから」
恐らく彼を探しているんだろうと思った望美が話すと、案の定ゆきはびっくりした顔をする。
「えっ‥‥‥そう、なんだ」
「‥‥‥ねえ、どうしてリズ先生が気になるの?昨日会ったばかりでしょ?」
わざとらしくならない様聞く望美に、首を傾げてゆきは話した。
「わからない、けど‥‥‥懐かしいの。何でだろ?」
「懐かしい?」
懐かしい、とはどういった事なのか。
謎が増える一方な気がする。
頭を抱えたくなった望美に聞こえた小さな呟き。
「‥‥お父さんみたいだったのかな」
「すみません、五条大橋に少し用があるんです」
「じゃあそこまで一緒に行きましょう!」
弁慶に頼まれ六波羅に行くついでに、少し遠回りする事になった。
五条大橋に着いた時、袂ですれ違った貴族が、顔をしかめて歩いていった。
「おぉ、いやだいやだ、すっかり荒れ果てておるわ」
あまりにも鼻につく言い方にゆきは少しムッとなった。
「そういうものなのか?‥あまり関係なさそうですが」
「けれど確かに五条大橋の周りって荒んでいるわ」
譲が首を傾げると、朔が何とも言えない顔をして答える。
何と言ってもこちらに来たばかりの望美や譲には解らない事が多いだろうと、彼らの後ろでゆきは思う。
世界も、時も、風習も全てが現代とはまったく別なのだから。
馴染むまで随分苦労したことを思い出し、ゆきは小さく笑った。
「‥‥ゆきさん、少しいいですか?」
「‥‥?はい、いいですよ」
弁慶に呼ばれたゆきは、彼の元へとやってくる。
「皆さんは先に行って貰えますか。少し用事があるものですから。すぐに追い付きます」
「‥‥わかりました。六波羅で待ってます」
「すみません、望美さん‥‥では、ゆきさん、一緒に来てくれますか?」
「‥‥‥あ、はい」
よくわからない、といった風情のゆきを連れて。
弁慶が五条河原の方へと歩いて行くのを、望美はじっと見ていた。
「‥‥望美?」
「何でもない、行こう!!」
朔に呼ばれて振り向いた時には、いつもの笑顔だった。
「‥‥行きましょう、先輩」
「神子は、私が守るよ。大丈夫」
自分が不安がっていると思ったのか、白龍が励ますように彼女の袖を引く。
その気持ちが嬉しくて、望美は笑顔で白龍の頭を撫でた。
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