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望美の「帰りたい」という言葉を受けて、白龍が目を閉じる。




「――私も、神子を助ける力を‥‥‥神子に、力を‥‥‥」




白龍の内から眩い光が溢れて。

そして、一瞬で光が揺れる。



「白龍、負担がかかってる!これ以上はだめ!」



白龍の気が弱るのが見えたゆきは慌てて彼を止める。




「‥‥‥今のは何ですか」

「神の力ですね。龍神の力、その片鱗なのでしょう」




問うてきた譲に説明しながら、弁慶が確認の眼差しを向けると、ゆきは小さく頷いた。



「朔殿、あなたもご存じだったのでしょう?」

「‥‥ええ。確証は持てなかったけど、人の姿の黒龍によく似ていたから‥‥黙っていた訳ではないの」



朔が望美に謝っていた。


「―――この子は‥‥龍神。応龍の陽の化身。白龍だよ、有川くん」

「‥‥元宮?」



ゆきが補足すると、弁慶は少し驚いて、ああそうか、と頷いた。



「ゆきさんも知っていたんですね」

「‥‥ちょっとだけ気を読めるようになったんです。どんなに小さくても神気と人の気は違うから。‥‥‥ね、白龍」

「ゆき?」



ゆきは再び白龍へ体を向けた。



「龍脈の力を取り戻せば戻れるんだよね?‥‥‥黒龍も」



朔が息を飲む気配を感じた。



「うん。龍脈に力が戻れば私の対も、戻れる。もう一度時空の道を、作ることもできるよ」



望美がすっくと立ち上がる。



「白龍に力がなくて時空を越えられないなら、力を取り戻せばいいんだよ!」



(凄いな、望美ちゃん)




この強さはどこから生まれるのだろうか。




うん、と頷いてゆきが言う。



「龍神が持つ神力は、龍脈を流れる五行の力だよね」



そして、弁慶が引き継ぐ。



「ええ。五行の力は奪われ、怨霊の中に留められていますが、望美さんが封じれば龍神の力も開放されるでしょう」

「怨霊と戦うということですか」



難しい顔をする譲に、そうなります、と弁慶は厳しい表情を浮かべた。



「怨霊を放っておくわけにいかない、やります!」

「‥‥ありがとうございます」



強い決意を込めたまなざしで望美は弁慶に応えた。



(望美ちゃん‥‥)



自分の知る望美とは何処か違う。
揺るぎない決意を秘めた目で、反対している譲を説得している。
















望美達の説得を受け、譲が仕方なく納得する。
満足した望美は、今度はゆきに目を向けた。

ゆきも望美をまっすぐに見て、頷ぃ。



「私、八葉じゃないけど‥‥‥出来る事は何でもするからね、望美ちゃん」

「ありがとう、ゆきちゃん」









(白龍の神子様が望美ちゃんで良かった)

(ゆきちゃん、今度こそ)

(望美ちゃん、私はあなたを)




守るからね。

























「戦に参加するなら九郎を説得しなくてはいけません。彼は今日、法住寺にいるので僕たちも行きましょう」



決意のこもった場に、弁慶の声が厳しさを増す。



「九郎さん?‥‥もしかして『女子供を戦に参加させる訳にはいかん!!』とか頑固な事言ってるんですか?」



ゆきが九郎の真似をやったらあまりにも絶妙だったので、弁慶達は爆笑した。



「ええ‥‥まぁ‥‥」

「石頭なんだから、九郎さんって。しょうがないなあ」

「‥‥‥君にかかれば、源氏の総大将も形無しですね」

「弁慶さんもしょうがない人ですよ」

「ふふっ。‥‥そんな事を言うなんて君はいけない人ですね。‥‥‥‥今晩、ゆっくり話しましょうか。僕のどの辺がしょうがないのか」

「‥‥‥‥その辺がしょうがないんだと思います」



溜め息を吐くゆきを見て、弁慶はまた笑う。



(本当に、君は‥‥)













ゆきも望美達に付いて行きたかったが、師匠に呼び出されていたので別行動を取る事になった。
先にゆきが邸を出る。



「協力するとか言っといて、初日からごめんね。望美ちゃん」



心底申し訳ない、と頭を下げるゆき。



「大丈夫だよ!絶対認めさせてくるから!!任せといて!」



拳を振り上げる望美が逞しかった。





「行ってきます」

「師匠殿によろしくね、ゆき」

「元宮、気をつけて」

「うん!」















一条にある土御門邸に着いたゆきに、師匠の土御門郁章は書物を渡した。





「おめでとう。初任務だよ」







「‥‥‥へ?」


(はつにんむ?‥‥任務ってつまり仕事だよね)


「‥‥‥‥あの」

「うん?」

「私、修業をするためだけに、ここに弟子入りしたんだと思ってましたが‥‥」

「私もそう聞いているよ」

「‥‥‥‥‥任務、ですか?」

「実践の修業だと思って頑張ってごらん。ちゃんと報酬は出るから」



(報酬かあ‥‥‥‥ま、いっか)



「わかりました。お願いします」



師匠に頭を下げながら



(勝手に仕事を決めたなんて言ったら後で朔達に怒られるだろうなあ‥‥‥‥)



とはその時考えていたのだ、一応は。




(ここにずっといるなら、いつかは自立しないとね)




けれどいつまでも「梶原家の預かり姫」の立場で甘えるつもりはなかった。
早々に自立の手段も考えなければならない。
幸いゆきは陰陽術の素質があった。

何より、実践に勝る修業はない事をゆきは知っているから、好都合だ。



「六波羅に呪詛を行なっている人物がいるらしい。調べてきてくれないか」

「はい‥‥あの、どうやって調べれば‥‥‥」



そんなやり方なんてさっぱりわからない。
首を傾げるゆきの頭を郁章は優しい手つきで撫でた。



「一通りの事は出来るようになったのだから、自分で考えなさい」

「‥‥‥‥あんたは鬼かぁぁぁぁ!!」

「実践‥‥いや、実戦じゃないか。何とかなるよ」



笑って取り合わない目の前の男に、ゆきは害意を抱いた瞬間だった。



「私が失敗したらどうするんですか」

「大丈夫」











(師匠‥‥‥大丈夫って、信頼してくれてるんだ)











「骨は拾ってあげるから」

「‥‥‥‥」


いつかコイツをシメてやる、心に固く誓った。








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