(3/4)
「‥‥ゆきちゃん!ゆきちゃん!ゆき‥‥‥ちゃん!」
涙混じりの叫び声と共に、ぼすっと柔らかいものがぶつかってきた。
「‥‥‥ゆきちゃんっ‥‥‥良かった‥‥」
しがみつくように回された、震える、腕。
眼の前には優しい紫苑の髪が広がる。
その人はゆきをきつくきつく抱き締めながら、涙声で何度も「良かった」と呟いた。
「‥‥望美、ちゃん?‥‥」
離れる前と変わらない優しいぬくもり。
この世界に来てから何度も探し続けた暖かい人。
ゆきの目にも涙があふれる。
‥やっと、逢えた。
会いたかった。
無事でいてくれて、良かった‥‥。
「望美ちゃん‥‥私‥‥わた、しも‥逢いたかっ‥‥‥」
嗚咽が止まらない。
柔らかい背中に腕を回し、しばらくの間泣き続けた。
「へへっ、望美ちゃん泣きすぎ〜」
「ゆきちゃんもいっぱい泣いたくせに」
何だか照れちゃうね、と。
しばらくして身体をそっと離し、恥ずかしそうに笑う二人。
(そういや望美ちゃんも一人でこっちきたのかな)
ふと浮かんだ疑問。
(そういえば九郎さんは、八葉も来たって‥‥‥‥)
ならば、望美と共に来たという、もう一人は。
いつも望美を守ろうと努力し続けた彼、ではないだろうか。
厨の方から足音が聞こえてきた。
近付いてくれば来る程、胸が締め付けられそうになる、懐かしい彼の『気』。
「元宮?元宮か?」
懐かしい青碧のさらさらな髪。
真面目で優しい、眼鏡の奥の瞳も。
「元宮。どうしたんだ?呆然として」
少し癖のある、神経質な、でも暖かい声。
弓道をしているから、細身でもしっかりした肩。
みんなみんな、記憶のままそこにあって。
こんなにも、こんなにも忘れられなくて。
こんなにも愛しくて、愛おしくて。
「有川、くん‥‥‥」
譲がゆっくり近付いて来ている。
ゆきは金縛りにあったように、動けない。
「元宮!無事だったんだな!」
彼はそう言って、抱き締めた。
「‥‥‥‥‥っ‥‥」
彼にとっては、ただ無事を安堵しての抱擁。
それは解っている。
(でも、せめて‥‥今だけは)
少しでいい。浸らせて。
そう願いながら、ゆきは彼の背に腕を回した。
前 次