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‥‥小さく漏らしていた嗚咽が聞こえなくなった。




身体に布団を巻き付けて、柱に凭れて座っていた。



暫く様子を見ていたが動く気配はない。

泣き疲れて眠ったのだろう。





このままでは風邪をひくから。

ゆっくり近付き、布団ごと抱き上げた。




(全く、手の掛かる人ですね)



辛いなら吐き出してくればいいのに。



泣いて縋ってきたなら、幾らでも抱き締めてやったのに。


何よりも君が心配だという振りをして。

優しい言葉を欲しいだけ与えて。
愛しそうに見つめてやって。
欲しいだけ甘やかしてやろう。


自分なら全部与えてやれるのに。





愛などなくとも、愛してる振りなど幾らでも出来る。

そんなもの、造作もない。





起こさぬように彼女の部屋へと歩きながら、弁慶は苛立ちを覚えていた。



一人で泣く事を選ぶゆきに。

甘えてくればいいのに、そうしないゆきに。



‥‥‥無邪気で無垢で、優しい少女。



(君は本当に可愛いですよ)



無力な自分を痛感して、壊れて行くのを見るも一興。








腕の中で眠る小さな花。






ACT6.届かぬ月の光

20070727


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