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夕ご飯を皆で食べる。



戦が始まった今ではなかなか揃わなかったりするから
、皆で食べるのは本当に久しぶりのことだった。



(もうすぐ、一年になるんだな。)


ゆきが京に来て。

弁慶と九郎に助けられて。

景時と朔に居場所を貰って。



あっという間に過ぎた時間に、ゆきが思いを馳せていた時だった。



「ゆきに話がある。」




九郎が箸を置いて座り直した。
見ると、弁慶、景時、朔も姿勢を正してこちらを見ている。



「あ‥‥はい」



少し重くなった空気に、ゆきも居住まいを正す。

何だか居心地が悪かった。



「お前も気づいていると思うんだが、平家との戦は始まっている」

「はい」

「それとは別に木曾殿とも戦が始まる」



木曾って確か‥‥。



「木曾義仲、旭将軍ですか?」

「ゆきさんはご存知でしたか?」



知っている。義仲の息子の志水冠者義高と、頼朝の長女で九郎の姪である大姫の物語は何度も読んだのだ。



「名前だけは」

「そうか。‥‥‥俺たちはもうすぐ出陣しなければならない。だが、お前を連れて行く訳にもいかない」

「私なら大丈夫ですよ?朔とお留守番してますから」



いつもの事じゃないですか。


と続けるつもりのゆきに、言い出し難そうに景時が言った。



「実は、今度の戦に朔も出陣しなければいけないんだ」





「‥‥!!朔、も‥‥‥どうしてっ!!」





思いもよらなかった言葉にゆきは立ち上がった。



(だって、朔は女の子で。戦場は危険なのに!!)



「ゆき、落ち着いて。座って、ね?」



立ち上がり、どこか呆然としたゆきの手を朔がそっと引き寄せ座らせた。

心配してくれてありがとう、と手を握ってくれる。



「‥‥これは、兄上の命なんだ」

「朔殿は黒龍の神子です。平家は怨霊を生み出して戦力としています。彼らを鎮められるのは朔殿しかいないんですよ」



九郎に引き継いで説明する弁慶の、一見穏やかで内心の窺えない眼。
それを見ているうちに、ゆきの心はすうっと凪いだ。

景時に視線を移すと、僅かばかり顔を曇らせている。



(私だけが辛いんじゃない。朔だって不安だろうし、妹命の景時さんだって連れて行きたい筈がない。九郎さんも、弁慶さんも、きっと)


私が皆を責めてどうなるの。



「‥‥‥朔を、守って下さいね。お願いします」

「‥‥‥ああ、必ず」



ゆきが頭を下げると、皆ほっとしたのだろう。途端に空気が和む。



「あ、そうだ。私はここで待ってればいいんですか?」

「それなんですが。実は今日、九郎と景時と三人で土御門邸へ話をつけてきました。君のお師匠さんが暫く引き取ってくださるそうです」



どこか楽しそうな弁慶。



「は?引き取るって、なにを?」

「お前だ、ゆき」



にやっと笑う九郎。

ゆきは思いっきり固まった。



引き取るって、犬や猫じゃあるまいし。



「あの方なら信頼できるからね〜」



ゆきの空気が剣呑になっているのに気づかないのであろう、善良な景時が本当に嬉しそうに言った。



「あの女ったらしのどこが信頼できるのっ!?」



絶叫するゆきを見て、普段はどんな師弟生活を送っているのか心配になった朔だった。



その後の九郎の一言が、逆鱗に触れたらしい。




「安心しろ。お前は女っぽくないからな!!」



フォローのつもりだったのだろうが、額に皿が飛んでくる惨事となった。






 


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