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「手掛かりは見つかった?」
「いや‥‥めぼしい情報もない」
「私も気になって、出掛けたついでに調べましたが‥‥お二人の捜し人らしき情報はありませんでした」
思いも寄らぬ言葉にゆきはびっくりした。
「調べてくれたの?ありがとう!」
「ええ。ゆきさんのお役に立てるのでしたら」
「サンキュー重衡。でももっと早く言ってくれよ」
「ゆきさんに最初にご報告しようと思っておりましたから」
「‥‥お前らしいな」
悠然と微笑む重衡に何も言えなかった将臣だった。
「私の方も、さっぱりだった。安倍‥‥土御門家でも調べて貰ったんだけどね」
「そっか」
「私がもっと五行の気を感じるようになればいいんだけど‥‥あの二人の‘気’を知ってるのは私だけなんだから」
気を辿れたら捜しやすいのにね。
未だ五行の気を読めないゆきが、悔しそうに拳を握った。
「大丈夫だ」
「将臣くん?」
頭を撫でる手に視線を上げると、将臣の優しい目。
「お前一人が背負い込まなくていいんだ。俺が‥‥俺達がいるだろ?」
「‥‥‥うん‥‥‥」
将臣にはゆきの気持ちが痛いほど解る。
安否が解らない焦燥も、歯痒い程の無力感も、手に取る様に。
同じ無力感を抱いてきた自分だから。
「お互い頑張ろうぜ」
「うん、ありがとう」
今のゆきは頑張る事が支えだから、励ましてやりたいと思う。
「それに、あいつら簡単にどうにかなっちまうようなヤワな奴じゃねえ。だろ?」
「ぷっ、何気に失礼だよ、将臣くん」
ゆきが吹き出した。
それを見て、ホッとする。
「私もついておりますよ、ゆきさん」
「重衡さん‥‥‥ありがとう」
「重衡お前‥美味しいとこだけ持っていきやがって」
三人の笑い声が秋の空に広がった。
「朔!!」
見慣れた後ろ姿を見つけてゆきは手を振った。
黒髪の綺麗な女性が振り返って破顔し、こちらに向かって歩いて来る。
「ゆき!‥‥‥‥あら、こちらの方達が‥‥?」
「うん。将臣くんと重衡さんだよ‥‥‥‥で、こちらが私がお世話になっている、朔です」
敢えて姓を伏せて紹介した。
お互いの素性がバレるのは、将臣達にも自分にも朔にもプラスにならない。
「初めまして」
「初めまして。ゆきからお話は色々伺ってます」
「ったく、何の話をしてんだよ‥‥‥‥ゆきがいつも迷惑かけてます」
「迷惑かけてないもん!‥‥‥‥‥‥‥‥多分‥‥‥‥」
かけてない、と言い切れない自分が悲しい。
膨れっ面のゆきを見て、三人は笑い声をあげた。
「ふふっ。大丈夫よ、ゆきにはいつも助けられてるわ」
「朔〜!!」
「私なら、可愛いゆきさんにかけられる迷惑は喜んでお引き受け致しましょう」
「重衡さんっ‥‥」
穏やかな笑顔でサラッと甘い言葉を紡ぎ出す重衡。
朔が目を丸くしている。
彼女が何を‥‥いや、誰を連想したか解るゆきは、視線をずらす。
吹き出さないように。
重衡の言葉は、慣れている将臣があっさり流したけれど。
「あーはいはい。そろそろ帰るか」
「そうですね‥‥‥また、お会いしましょう」
「重衡さん、元気でね」
「はい。貴女もお健やかに」
「ゆき、俺には?」
自分を指差す将臣に、ゆきは向き直って飛び切りの笑顔を見せた。
「わかってるって!ばいばい、マッチ!!」
「マッチかよ!!」
頭を掻きながら歩き出す将臣と重衡。
「ありがとう」
後ろ姿にそっと呟いた。
「ねえ‥‥重衡殿って‥」
「弁慶さんにそっくり、でしょ?」
言いにくそうな朔の代弁をしてやる。
同意すると思ったのに、朔は違う事を指摘した。
「確かに似てるわ。女性に対する態度なんてそっくりね‥‥‥でも、貴女の反応が全然違ったからびっくりしたの」
「私の反応?」
「そうよ。解らない?」
ゆきの顔を覗き込む朔の目に不可思議な輝きが宿っていたことを、考え事をしているゆきは知らなかった。
朔に指摘された事は解るが、意味は解らない。
『重衡』と『弁慶』の違いがなんなのか。
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