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「‥‥‥ゆき、明日は休みだよ。何処かへ出掛けてきなさい」

「‥‥‥は?明日ですか?」

「そう。君に、巡る縁の卦が見えるからね」



明日はどうせ外出しなくてはいけない日になるよ、と事も無げに言う師匠にゆきは首を傾げた。



「さっぱりわかりません、師匠」




季節は春。桜が美しさを誇示し始めた頃のこと。









ACT5.再会と、帰る場所







「師匠、そんな事も占で解っちゃうんですか?」



ゆきは、正面の文机に向かう青年に問い掛けた。


師匠である青年の名は、土御門 郁章(つちみかど ふみあき)。

土御門家の次男で、歳は弁慶と同じだと聴いた記憶がある。



土御門家とは古の大陰陽師、安倍晴明の子孫に当たる。

景時が「安倍家」と言うのは、安倍晴明の流れから。
陰陽道を修める者の中では土御門と言わず、安倍と呼ぶ者も多い。



「師匠?」



問われた郁章は「ああ」と呟き顔を上げ、ゆきを見た。



「君にもそのうち出来る様になるから安心しなさい」

「‥‥答えになってません‥‥」



はあ〜、と脱力するゆきにはもう目もくれず、机に向かって何やら文を書いている。


その真剣な顔を見れば、やはり格好いいと思う。

九郎や景時、弁慶と言い京に来てから知り合った人達は、美形ばかりだ。



(イケメン好きの私には美味しいとこなんだよね、京って)


‥‥師匠の性格はともかくとして。




青年はさらさらと文を書く。

それが恋文である事を知ってるゆきは、特に気にもせず、手元の書に没頭する。





こんな感じで陰陽師見習いの毎日を過ごしていた。














梶原邸の庭にて霊力を暴発したあの日、



「安倍家でちゃんと学びたい」



と頭を下げたゆきに、景時達は渋々と了解した。


その翌日、思いも寄らぬ客人を迎えた事により一応は解決する。


強い暴走の気を感じ取った、土御門家現当主が梶原邸へとやってきたのだ。


彼の説明により、今のゆきは五行の気の流れを読み解く力が無く、その為に術が暴走することが解った。
気を読む術を身に着けないと、暴走を繰り返して京にとっても厄介な存在になる、と。



(‥‥このままじゃ厄介者になるよね、私)


当主は「土御門家の事情などには巻き込まぬ」と呪にかけて誓い、景時を卒倒させた。
めでたく許可を得た次の日から、陰陽道の徒として毎日梶原邸から一条にある土御門邸へ通っている。


それから、かれこれ四か月が経過しただろうか。
















「私は今から用があるからそろそろ帰りなさい」

「もう?まだ日は高いですよ。逢瀬には早いんじゃないですか?」



ちっとも真面目でない師匠にも、もう慣れていた。

焦る事もあるけど、今の自分に必要な事を抜かり無く指導してくれているから、問題ない。



「桜を見たいとせがまれたんだよ。折角だから鞍馬へ連れて行こうと思ってね」



彼女を思っているのだろうか、優しく眼を細めて笑う様は、弁慶に似ている。
こちらまで嬉しくなってくる。本人には決して言わないが。



「じゃあ、私は帰ります。今日も一日ありがとうございました」

「気をつけて帰りなさい。明日は休みだよ」

「はい!師匠もごゆっくり」



(桜かあ‥‥まだ早いし、帰りに見に行こうかな)





喜々として帰り支度をするゆきだった。


 


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