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「ゆき‥‥ずっとそこにいたの?」

「‥ごめんなさい、話し声が聞こえたから‥」



駆け寄り、冷えきったゆきの手を朔の両手で包みこんだ。
そのまま室内へと引っ張りこむ。



「いつから聞いていた?」

「安倍家が危険ってとこから」

「‥‥‥そうか」



呟きをひとつ、九郎は目を薄めた。

視線を隣の男へと移して、どうする、と目だけで問う。
問われた弁慶は一瞬だけ九郎を睨み無言で脅した後に、優しい表情を浮かべてゆきを向いた。



「君はどう思いましたか?」

「‥よく解らないです。何もかもがいきなり過ぎて。でも‥‥」



数瞬の間、目が揺れる。
そして姿勢を正して景時に向き合った。



「‥‥景時さん、私を安倍家に連れて行って下さい」



手をついて頭を下げた。



「‥‥ゆきちゃん、さっきの話をわかった上で言ってるの?」

「はい」

「ないと思うけど、そんな目に合うかも知れないんだよ」

「はい。でもこのままだと、また暴走したりして、皆に迷惑かけちゃうかもしれません」

「それは‥‥」



さすがに力の暴走の事を言われては、何も言い返せない。



「‥‥じゃあ、ゆきちゃんは何で安倍家に行きたいの?オレ達に迷惑かけたくないから、だけじゃないよね?」

「それは‥‥」



ゆきが目を見張ったのは、ほんの一瞬。




「あの時唱えた言葉は、父が昔、唱えてたものでした‥‥父が何をしていたのか覚えてないのが悲しい」

「お父さんは、陰陽師だったのかな‥‥‥?」

「判らないけど、もしかしたらそうかも、と思って」




なるほど、と。
その場にいた全員が納得した。

彼女が尊勝陀羅尼を唱えたのは、記憶の中から引っ張り出したからだったのだと。



「あ‥‥あと、私と一緒に流されて来た筈の、大切な人達を探す力にもなるかもしれない、とも思うんです」

「‥それは」


不意に立ち上がる弁慶を、その場の全員が驚いて見た。


「弁慶さん?」



ゆきのきょとん、とした声で呆気に取られた皆の目線に気付き、と苦笑しながら座り直す。



「いえ、何でもないんです。すみません」



微笑む弁慶が、何処か途方に暮れてるように見えた。


そんな弁慶をじっと見つめ、ゆきはもうひとつの決意を胸に抱き締める。











私は、あなた達を守る力が欲しいんです。








家族のように大切にしてくれる、優しい命の恩人達を。







ACT4.記憶の中の

20070725


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