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ゆきの周りを、眩い光が球状に包んで、消える。
結界が結ばれたらしい。
陰陽術を何度か目にしたが、景時の手腕にいつも感心する。
敢えて口に出さないが。
結界の中ではゆきが壁に手を当てて、触りまくっているのを見て、笑みがこぼれた。
「緊張感のない奴だな、あいつは」
隣では九郎が苦笑している。
朔の顔は見ていないが、きっと心配そうな表情を浮かべているだろう。
あの、ゆきを妹のように思う彼女なら、きっと。
視界の端で、景時がゆっくりと祝詞を唱え出す。
以前、景時に聞いた事があるが、簡単な結界は略式の祝詞で充分解けるのだと言う。
──但し霊力が高ければの話だが。
(景時が結界解除をさせると言う事は、恐らく彼女の力を量る為でしょう)
実弾の込められてない銃は、只人には武器にすらならない。
暴発するなど有り得ないのだ。
何らかの霊力がないとあの銃は発動しないのだ。
一人、目眩るしく考えていた弁慶は、ゆきの様子が、どこかおかしいのに気付いた。
祝詞を繰り返さないばかりか、呼び掛ける景時の声にも反応しない。
固く目を閉じ、両手を胸元で組み、祈る様な姿勢でじっと立っている。
やがて、景時が弁慶達の前方に移動し、ゆきに銃口を向ける。
やはり彼も異変に気付いたのだろう。
結界を解くつもりだ。
「ゆき!!」
朔が見兼ねて叫び、駆け寄ろうとするのを九郎と弁慶が止めた。
「朔殿、落ち着くんだ!」
「僕達には何も出来ません。ここで待ちましょう」
唇を噛み締めながらも、朔が大人しくなったので、弁慶は再びゆきを見る。
彼女の唇から、ゆっくりと言葉が紡がれた。
『‥‥サマンダ・ボダナン・カロン・ビギラナハン・‥‥』
「駄目だ!」
叫びながらこちらに走ってくる景時。
焦る彼が妹を庇う様に立った瞬間、銃声が轟いて、今度は自分達に結界が張られた。
『‥‥ウシュニシャ・ソワカ』
何故僕達に結界を、と問う間もなく。
‥‥‥辺りは轟音と爆風に包まれた。
結界の外を風と共に砂埃が舞っている。
一瞬の後、どこか呆然としながら、景時が結界を解く。
ただ身体の赴くまま、弁慶はゆきの元へ走った。
全身から力が抜けてへたりこむ。
ぼんやり霞む視界の中に、見知った人達が走って来るのが見えた。
(‥‥あれ?弁慶さんがやたら神々しい?)
と思ったら、外套のフードが脱げて髪が露出していたのだと気がついて、何だか笑える。
‥‥‥どうやら自分が、記憶のままに唱えた言葉は、結界とは全く関係なかったみたいだ。
この惨状を引き起こしたのは間違いなく、自分。
それがわかっていたので、ゆきの目元がじわりと緩んだ。
「ゆきさん!!」
気がつくと、弁慶の顔が目前だった。
何だか泣いてる様に見えるのは、気のせいだろうか。
「ゆきさん?中に戻りましょう」
「‥はい」
返事をするゆきは、軽々と弁慶に抱き上げられる。
「ひ、一人で立てますってば!」
慌てふためくゆきに溜め息をつき、極上の笑みを浮かべて弁慶が言った。
「これ以上無理をして、また一週間、部屋で寝たきり 」
「すみません運んで下さい」
「‥ふふっ、素直で可愛いですよ」
(今日はお姫様抱っこデーなんだろうか‥)
どうでも良い事を考える彼女は少しズレているのか。
しっかりとした、温かい腕。
身体を支える弁慶の腕の中で、すぐに睡魔は襲ってきた。
(あ‥何だかすっごく眠たい‥‥)
身体の隅々が眠い。
途切れそうな意識の中、間近に皆の顔が見えたので、謝らなきゃと何とか謝罪を口にする。
「ごめんなさい‥」
そこまで言って、ゆきは眠った。
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