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「兄上!外で凄い音がしたけど‥‥‥‥‥ゆきっ!?」



九郎に抱き抱えられたゆきを見つけ、朔が血相を変えて走り寄る。



「心配無用だ、朔殿。冷えてはいけないから中に運んだ」

「朔、大丈夫だよ。ちょっと腰を抜かしただけだから」



九郎に続いてゆきも大丈夫と主張するので少し安堵する。
が、その顔色が真っ青なのに気がついた。



「寒いでしょうから中に入ってて。お茶を入れてくるわ。‥九郎殿、兄上は?」

「景時ならまだ庭にいるだろう。朔殿、すまない」

「いいのよ。早くゆきを中に入れてあげて」



ああ、と頷きながら九郎は思った。



(朔殿はゆきに随分過保護だな。姉妹と言った処か‥)



普段から朔はゆきに対して、何くれとなく世話を焼く。
ゆきも嬉しそうに目を細めて朔を手伝う。
その姿は仲睦まじい姉妹にしか見えない。

朔がしっかりしてるからか、ゆきがぼんやりしてるからか。
たったひとつしか違わないのだとは見えなくて、九郎はいつも笑いそうになる。


‥‥ああ、でも。

朔だけでなく、景時も、弁慶も。

突然異世界から現れたこの少女を、皆は痛い程に可愛がっている。



そこまで考えて、ふと苦笑した。



(俺も同じだな)



毎日、責務が終われば当たり前のように梶原邸へ来るようになった九郎と弁慶。
ゆきが来るまでは、そんな日課などなかったのに。


ここには彼女がいるから。
笑って出迎えてくれるから。



彼女をからかったり、心配したり、共に笑ったり。

そんな毎日が楽しいと思う。
恋慕のような切ない感情はなく、ただただ癒される。


(これが妹を持つ兄の気持ちというものかも知れないな)


だとしたら、妹を持つのもいいものだ、と九郎は思った。











ACT4.記憶の中の









「‥‥着いたぞ。一人で座れるか?」

「座れるよ!」



馬鹿にするな九郎〜、と続けるゆきを見て、少し笑って降ろしてやった。

しかし円座に座ると言うよりは座り込む、という力のない少女を見て眉を顰める。



「何処か痛い処はないか?」

「‥‥ん。頭がふらふらするくらいです‥‥」



青ざめた表情で額に手を当てて、ゆきは答えた。
彼女の頭を撫でながら、九郎は問い掛ける。



「そうか。俺は今から弁慶を迎えに五条大橋へ出掛けるが、一人で大丈夫か?」



うん、と頷くゆき。



その直後、聞き慣れた優しい声がした。



「その必要はありませんよ、九郎」

「弁慶さん!」

「弁慶」



部屋の戸口を見ると、黒い外套。



「お帰りなさい!」



嬉しそうなゆきの笑顔を見て、釣られて微笑みかけた弁慶だったが、

いつもより青い顔色を見て、訝しむ表情をした。



「景時が式神を飛ばしてきたので、急いで戻って来ましたが‥‥今度は、何があったのですか?」



今度は、の部分に力を入れる辺性質の悪い奴だ、と九郎は密かに思う。
そんな九郎には見向きもせず弁慶は中に入ると、ゆきの正面に座り、彼女の頬に手を添え持ち上げた。

途端に顔が赤くなる少女の目をじっと見つめて問う。



「ゆきさん?顔色が悪いですよ?」

「あ‥あの、景時さんの銃で‥‥それで‥‥」

「景時‥?九郎」

「景時の銃が暴発したんだ」



上手く説明出来ないゆきの代わりに九郎が話す。



「景時の銃が、ですか?」

「兄上の銃が暴発するなんておかしいわね」



いつの間に朔が入って来たのか、手には盆を持っている。

ゆきの頬に添えた弁慶の手を朔が険しい目で見ると、素直に手を放した。
にっこり笑って、彼女にお茶を渡す。



「はい、ゆき。熱いわよ」

「ありがとう」



ゆきはにこっと笑うとお茶を飲んだ。



やがて、皆の身体が暖まって来た頃、景時が戻ってきた。



「ゆきちゃん。疲れてる処を申し訳ないけど‥‥ちょっと庭に出てくれないかな」

「あ、はい」



立ち上がろうとするゆきに、弁慶が手を差し出した。



「僕達も行きましょう。どうぞ、お嬢さん」

「恥ずかしいからそれやめて下さい‥‥」



手に掴まり立ち上がりながらゆきが言うと、弁慶は笑う。



(京の人って皆、こんな事平気で言えるのかな)


と思ったが、前を歩く九郎を見て、弁慶が特殊なのだと納得した。





 


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