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その後、


「大人しくするなら景時の所へ行ってもいいですよ」


と弁慶に許可を貰ったので庭に出た。



景時は鼻歌まじりに楽しそうに洗濯物を干している。
少し離れた植え込みに、朔がいた。
花の手入れをしているらしい。


奥で素振りをしていた九郎がゆきに気付き、近付いた。



「随分早かったな。もっと長くかかると思ったんだが」

「ちょっと叱られただけだよ。薬は苦かったけど」



あの味を思い出したのだろう。
ゆきが思い切り苦虫を潰した顔をすると、九郎も景時も朔までも笑った。



「ああ、苦いよね〜。効くのはわかってるんだけどさ。オレも未だに泣きそうになるよ〜」

「もう、兄上。情けない事言わないで」

「‥‥ゆき。もう、無茶はするなよ」



ゆきの頭をぐしゃぐしゃと撫でる九郎に、痛い!と訴えると我慢しろと返ってきた。


やがて九郎の手が離れたので、髪を整えて真直ぐに皆を見る。




(まずは『出来る事から』だね、弁慶さん)






「皆さんにお願いします。元気になったら私に字を教えて下さい」




これからここで生活するなら、字が読めないと困るだろう。









自分の知る日本史が確かならば、



これから、彼らは激動の道を歩くのだ。




自分に出来る事は少ないとしても、皆無じゃないと思う。







いざという時にほんの少しでも彼らの役に立ちたい。









自分の命を助けてくれた、

あてのない自分に居場所をくれた、




優しくて暖かい、彼らの役に立ちたい。







赤く色付く紅葉にかかる陽光を見ながら、ゆきは静かに決意した。






ACT2.君が笑ってくれるだけで





20070719


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