(5/5)
 


「失礼しますね」



しばらくして戸口で声を掛けられ、ゆきは振り向いた。


そこに立つ人物を見て、ゆきの心臓はどきりとその音を跳ねあげる。



金茶の髪。

身体を包む黒い外套。

そしてとんでもなく綺麗な顔立ちに浮かぶ、柔和な微笑。




「あ‥‥‥」





この人は‥‥






「あの時‥助けてくれた‥?」




問い掛けると、彼は笑みを深くした。




(そう、なんだ‥‥‥‥)








この人が、恐らく。

ゆきの命の恩人の





「べんべんさん 「弁慶です」 すみません」



(弁慶さん。顔は笑っているのに怖いのは何故でしょう‥‥‥)






ふぅ、と息を吐き、彼はゆっくりとゆきの横に腰を落とし、彼女の頬に張り付いた髪をかき上げた。

そして両手で頬を包み込んで眼をじっと見つめる。


「お腹の傷に心当たりはありますか」

「え?と、解らないです‥‥気がついたら血が出てたから‥」



弁慶はそうですか、と呟いてゆきの手をそっと握った。



「もう、大丈夫ですよ。これからは僕が付いてますからね」

「〜〜えええっ!?」

「ふふふっ」



(か‥からかわれたのね、私‥‥)













「助けて頂いてありがとうございました」


傷口を診察して貰った後、ゆきは弁慶にお礼を言った。


「いいえ。貴女が生きていてくれて本当に良かった」


にっこりと素敵な笑顔で続ける。


「こんなに可愛らしいお嬢さんを失う事は、僕には耐え難い事ですからね」

「‥‥‥そ、そうですか‥‥」



何だか物凄く歯が浮く台詞を言われた気がする。



「その辺にしておけ、弁慶」


かたん、と戸口で音がしたかと思えば、背の高い男の姿。
ゆきが首を傾げる横で、弁慶は眉を顰めた。


「九郎ですか。何をしに来たんですか」

「立ち寄ったら朔殿から目を覚ましたと聞いてな。傷はどうだ?痛むのか?」

「あ、はい、大丈夫です」


橙色の鮮やかな髪が目に飛び込む。


(髪、ながっ!!!うねうね!!でもでもこのお兄さんもすっごくカッコいい〜!!)


「ふふっ、君はいけない人ですね」


(なんで考えてる事がバレたの!?)











その後、お互い自己紹介をして貰い、卒倒しかけた。


何故なら彼らが、かの有名な





源九郎義経

武蔵坊弁慶


だと知って。




そして、今私が寝泊まりさせて貰っているのがこれまたかの有名な源氏の軍奉行こと、「梶原景時」の京にある別邸だとわかったから。










あの激流に流されて、
どうやら800年前に辿り着いたらしい。










望美ちゃん、有川先輩、有川くん‥‥

本当にどこにいるんだろう。





無事に会えるのだろうか‥‥‥?









弁慶と九郎にこれまでの経緯を説明しながら、不安でいっぱいになったゆきだった。











ACT1.涙雨のやむ前に


20070716


BACK
栞を挟む
×
- ナノ -