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「ここはどこ?私はだれ?ご飯はまだ?」
起きたら視界に広がるのは、広い天井だった。
見覚えがない、記憶にない‥‥‥となればこれでしょう!
と、ゆきは冒頭の台詞を出来るだけ‘悲劇的に’呟いてみた。
シーーン‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「喉‥かわいたなぁ〜‥‥‥」
虚しくなっただけだった。
どっこいせ、と起き上がろうとする。
‥‥‥瞬間、腹部に激痛が走った。
「あぃたたたたた‥」
涙目で腹を押さえ呟いて、あっケンシロウっぽくって素敵じゃん、と自画絶賛した。
けれど、痛みと孤独にに耐え兼ねて布団に元通り。
する事もないのでじっくり考えて見る事にした。
(ここは、どこなんだろう‥‥)
家、というよりは屋敷といった趣がある。
大きな柱、板張りの壁。
広い空間を布や木で出来たパーテーションみたいなもので仕切っている。
明らかに、自分の家や知りあいのそれとは違う。
(こんなデカイ家なら相当なお金持ちなんだろうなぁ‥‥‥)
でも、自分の知ってるものと、ここは、決定的に何かが違う。
理由のしれない違和感。
本当に、ここはどこなのか、とか
みんな、無事かなぁとかぼんやり考えていた。
「‥‥眠い‥‥」
そして再び眠りに就く。
誰かが優しく頭を撫でる。
ぬくもりが、頭を包みこんでいる。
「大丈夫」
と繰り返し言われてなんだか泣きたくなった。
誰だろう?
とっても、優しい声‥‥‥。
優しく包まれているような。護られているような安心感を覚える。
そして、頭にあったぬくもりがゆっくりと頬に落ちてきた。
(あったかい‥‥)
ぼんやり意識の片隅でそんな事を思っていたら、
唇に、何か、柔らかい物が引っ付いた。
(‥‥柔らかい)
初めての感触にうっとりしていたら、何か冷たい液体が唇を割って侵入してくる。
ゆきはごくん、と喉を鳴らして飲み込んだ。
(苦い、けど‥甘い‥)
一口飲むとまたひとくち。
少しずつ液体を注ぎ込まれ、ゆっくりと飲み干してゆく。
何度も、何度も。
‥‥‥どれくらい時間が経ったのか、いつの間にかぬくもりが消えていた。
(今のってまさか‥‥‥?)
熱が冷めて行く唇が、やけに寂しく感じた。
「あら、起きたのね?良かった」
ゆっくり視線を巡らせば、枕元には一人の少女がいた。
「えっ何このメイド服の似合いそうなお姉さんは」
「冥土?面白い事を言うのねあなた」
「すんませんでした!」
何だかこのお姉さんには逆らえない気がします。
「何か欲しいものはない?」
「えっと‥‥お水と‥‥‥‥イケメンを‥‥」
「池綿‥‥とは何かしら?」
「気になさらないで下さい」
(本当にイケメンが解らないみたいだな。今時こんな人がいるなんて‥‥貴重だよ)
「よく分からないけれど、面白い娘ね。私は朔。梶原朔よ。あなたは?」
「あ、えーと‥‥元宮ゆきです、朔さん?」
「朔でいいわ。よろしくね、ゆき」
ふふふ、と笑いながら、朔が立ち上がった。
藤色の着物が良く似合う。
「お水を持って来るわね。あと傷口を見て貰いましょう。弁慶殿を呼んで来るわ。しばらく待っていて」
「うん、ありがとう、朔」
朔のいなくなった部屋で、残されたゆきは一つ疑問を覚える。
「べんべんどのって‥‥‥‥‥何?」
べんべんと間違えられた(?)源氏の軍師兼薬師の足音はすぐそこまで迫っていた。
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