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『元宮、元宮』


‥誰、このひと?
振り返ると眼鏡が光っていた。


『でかい‥』

『第一声がそれは変だろ』





(あぁこれは初めて会話した日だっけ)





『えーと‥‥』

『有川譲。席替えで隣になったから。よろしく』

『有川くんね‥あ、私は元宮ゆきです。よろしくお願いします』


と言うと有川くんは吹き出した。


『もう夏休みなんだけど‥いい加減クラスの人間覚えなきゃいけないだろ』

『それもそっか』





(この日から仲良しになったんだ)





『有川くんおはようっ!朝練お疲れさん!』

『ん。もうすぐ試合があるんだ』

『そうなんだ?頑張って弓道部の星になってこい!』

『星になってどうするんだ‥』

『成仏するんだぞ!』





(本当は試合の応援に行きたかった)




『‥‥元宮、あのさ‥‥』

『うん?何だい?』

『女の人が泣いた時って‥‥どうすればいいんだろう‥‥』

『は?‥‥何かあったの?』

『いや‥‥泣いてたんだ‥』

『‥‥』

『元宮?』

『あ‥う〜んと‥ただ抱き締めてあげればいいんじゃないの?』

『そうなのか?』

『状況にもよるけどさ、何も言わずにただ抱き締める腕が欲しい時もあるんだよ』

『そうなのか‥ありがとう、元宮』

『‥‥‥‥ま、相手が嫌がってたら意味ないけどぉ〜』

『一言余計なんだよ!』






(この笑顔に泣きたくなった‥)

(抱き締める腕が欲しかったのは、私もなの)

(私はとっくに彼を見ていたのに)





『こんにちは!元宮ゆきちゃん!』

『‥‥?こんにちは?』

『‥‥おぅ』

『もうっ!将臣くんっ!口説いてオトしたいんだからもっと笑ってよね!』

『へ?口説いてオトす??』

『‥‥めんどくせぇなぁ‥‥どうも』

『あ‥‥どうも‥‥』

『間近で見ると益々可愛いっ!!ぎゅ〜ってしたいっ!!』

『!?』

『おい望美!こいつ引いてるぜ』

『あっ!いけないいけない!私、春日望美っ!よろしくねっ!』

『有川将臣だ。いつも譲が世話になってサンキューな』





(有川先輩は本当にカッコよくて‥望美ちゃんはとても綺麗で可愛くて、一目で大好きになったんだっけ)



『な〜んだ‥有川くんのお兄さんと幼馴染みさんだったんだ。びっくりしました!』

『笑った顔も可愛い〜!私のタイプ!!』

『‥え?春日先輩??』

『の・ぞ・み!!』

『え?』

『望美って呼んでよ、ゆきちゃん』

『は、はい‥‥望美、ちゃん』

『ん、よろしい!』


チラッと横を見ると、有川先輩が片目をつむり『ゴメンな』と合図してきた。





(有川くんがずっと想いを寄せてる人は、暖かくて優しくて)

(妬ける事も出来ない位に完璧で)

(私にとっても大好きな大切な存在になった)





仲良しになってたった半年だったけど。
とても充実してたっけ。

望美ちゃんしか映さない彼に、いっそ全てを打ち明けたい衝動に駆られた時もあったけど、踏みとどまれたのは‥‥
嘘をついてでも離れたくなかったからなんだよね。




ねぇ、どこにいるの?



有川先輩

有川くん

望美ちゃん‥‥‥








この想いを

隠し通すから

なかった事にできるから




「会いたい」


 


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