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「あ、そうだ!九郎さんに木刀を取りにくるよう言われてたんだった」
「九郎に?木刀など持ってどうするんですか?」
「リズ先生に弟子入りするんです!以前、約束してたから」
「‥‥弟子入り?」
とんでもないことを、心底嬉しそうに。
新しい事を始める期待で、ゆきの眼は煌めいていた。
弁慶の怪訝な声音にも、笑顔で頷く。
「はい。いつか立派な剣士になろうかなあって思って」
「‥‥‥それはまた凄く壮大な夢ですね」
ゆきに剣術。
それは、望美の手料理くらいに危険な気がするが。
‥‥‥なんて、望美が聞けば怒って剣を振り回し兼ねない事を考えて、弁慶はゆきの眼を見る。
「だって、剣士になったら弁慶さんを守れるから。だから‥‥‥」
へへっ、と恥ずかしそうにゆきは笑う。
「‥‥‥君は、全く‥‥」
愛しさのままに抱き締めた。
小さな吐息が聞こえる。
それはゆきが安堵に緩んだから。
‥‥‥この腕の中で、彼女が安らぎを覚えてくれる。
湧き上がる幸福に弁慶は小さく笑いながら、ゆきの肩に頬を埋めた。
こんなに華奢な身体のどこに、前向きな力が秘められているのだろうか。
「‥‥‥いけない人ですね。僕には守らせてくれないんですか?」
「弁慶さんは、いつも私を守ってくれたもの。嬉しくないって言ったけど‥‥‥‥‥‥本当は嬉しかったの」
胸に埋めていた顔を上げて、ゆきはまっすぐに弁慶を見上げ笑った。
「‥‥‥もしかしたら愛されてるのかもしれないと思ったら、嬉しくて‥‥‥だから、私も守りたいよ、弁慶さんを」
「ゆき」
弁慶は愛しい名を呼び、再び強く抱き締める。
そんな彼を好きになってよかった、と心から思った。
「‥‥‥取りに行くのは明日にしませんか?」
「え、なんで?後で来いと言われたのに」
「‥‥‥その格好で、夜に、僕以外の男の部屋に行くんですか?」
一言ひとこと区切る。
‥‥‥その笑顔が怖いと思いながら、ゆきは乾いた笑いを浮かべた。
「‥‥‥やめときます」
(結局私はこの人に逆らえないんだな)
満足そうに笑う弁慶に内心溜め息を零して、再びその腕の中に収まった。
未だ残る切なさはいつか消えるだろう。
この腕の中で、ゆっくりと昇華していくはず。
本当に、こんな日が訪れるとは‥‥夢にも思わなかった。
溢れる程の想いを、恋を、未来を、愛を
共に重ねていける。
「私、世界で一番幸せ者ですね」
「‥‥‥残念ですが、君は二番目ですよ」
「ええっ?」
顔を上げた瞬間に、触れる唇。
「‥‥‥一番幸せなのは、僕ですから」
ね?と聞き返せば、腕の中で幸せそうに君は笑う。
満開の笑顔。
初めて会った瞬間から、惹きつけて止まない君の笑顔。
花の様に鮮やかに
そして、陽溜まりの様に暖かいその全てが。
‥‥君の全てが
僕と言う大地に光と温もりを与えてくれる。
―――愛しき陽光
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