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「‥‥‥‥っ!!ごめんなさい」




目尻を拭おうと上げた手は、弁慶の手に捕らえられる。

そして息も吐けぬ程に強く抱き締められた。



「話は最後まで聞くものです。以前の僕なら確かにそう言っていたでしょう。君を僕の側に置いては傷付けてしまうから」

「そんなことっ‥‥」

「話は最後まで!」

「ぶっ!」



反論しようと上げたゆきの頭を、自分の胸に強く押しつけた。



「‥‥‥でも、君を失った世界はもう色がない。何もかもが光を無くして‥‥‥」

「‥‥‥私を、失う‥?」



ゆきを喪う。

‥‥‥あれ程辛い事は、他にはない。




「もう君を失えない。ずっと、僕の側にいて欲しい。
‥‥‥君を愛しています」

「弁慶さっ‥‥‥」



答える声が震えるから、ゆきはギュッと弁慶の首に腕を回した。








やっと、互いに手に入れた気がする。






「‥‥‥‥ようやく、君を捕まえられた。これを君の世界では両思いと呼ぶんですよね」



望美さんが教えてくれたんですよ。


耳元で囁く声が限り無く優しくて、ゆきは胸が熱くなった。









(‥‥‥‥‥‥ん?待てよ?)



「弁慶さん」



ゆきはがばっと弁慶の胸から顔を上げた。

怪訝そうなゆきの眼に、まだ涙が残っている。



「‥‥‥私、まだ気持ちを言ってませんけど‥」



そう、「好きです」も「愛してます」も告げていないのに。



「ああ、そんなことですか」

「そ、そんなことっ!?」




(そんなことってそんなことって、大事なことじゃ!?)



「‥‥‥君だって僕を、愛しているんでしょう?」

「うっ‥‥‥」



言葉に詰まるゆきを、不安そうに弁慶は覗きこむ。

勿論、わざとそんな表情を浮かべて。




「‥‥‥それとも、僕の勘違いかな‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥っ!!そんなことない!愛してますっ!!」

「でしょう?」



まんまと嵌められたと分かって、ムッとした。


けれど、心底嬉しそうな弁慶の笑顔に、不覚にも見惚れてしまう。



「もっとも、君が帰ると言っても、もう帰さないけれど‥‥‥試してみますか?」

「ええっ!?た、試すっ!?」

「そうですね、手始めにまず、小屋に閉じ込め‥ 「帰りません!帰らないですってば!!」」

「‥‥‥‥‥‥ふふっ、良かった。手荒な事をせずに済んで」



(絶対からかって楽しんでる!!)



上げようとした抗議の声は、優しく長いキスに溶けていった。




 
 


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