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「譲くんに妬けますね」
「えっ?ちょっ、眼!?」
「僕はこんなに君の事を想っているのに」
「え?‥‥‥ええ?」
弁慶の掌が瞼を塞いでいるのだと理解するまで数瞬。
そして、そのままで囁かれた彼の言葉が理解できなくて。
「あの‥‥んぅっ!?」
問い返そうとする唇もまた、塞がれた。
今度は手とは違う柔らかいもの。
「ん‥‥‥」
唇が離れると同時に手も離れた。
寂しく想いながら開けた視界一杯に広がるのは、優しく笑みを湛えた弁慶の顔。
何よりも欲しいと。
恋して、願っていた‥‥大好きな笑顔だった。
「弁慶さん‥‥‥」
弁慶は何も答えず、強くゆきを抱き締める。
外套のないその腕も胸も、今までよりずっと身近に感じた。
‥‥‥弁慶の腕の中にいる。
ずっと願っていた。
そして諦めていたことが今、現実だと分かってゆきの眼からぼろぼろ涙が零れる。
「‥‥‥君に、謝らなければならない事が沢山あるんです」
「‥‥‥っ」
静かに口を開いた弁慶に、上手く言葉が出なくて首を精一杯振ることで意思を示した。
「‥‥思えば随分と君を泣かせてしまいました。一人にもさせてしまった。傷付け、突き放して‥‥‥それなのに、君を独占したくて振り回していました」
「弁慶さん、そんなことな‥‥んんっ!?」
そんなことない、と言おうとした唇はまたもやキスで封じられる。
「この償いをさせてくれませんか?僕のこれからの一生を、君に捧げることで」
離れた唇がそう告げると、
ゆきは眼を見開く。
ゆっくり言葉が身体に浸透していくと、やがて泣きながら笑う。
思い切り弁慶の首に抱きついた。
「‥‥‥はい!!」
しゃくり上げて泣くゆきの頭を弁慶が優しく撫でる。
ようやく手に入れた愛しい存在の温もりを、互いに噛み締めるかのように、抱き合って何度も何度も唇を重ねた。
「一生をかけて‥‥‥弁慶殿がそんなことを?それって‥‥‥」
「プロポーズだよね、ゆきちゃん?」
後日、望美と朔に問われたゆきは。
「えええっ!?ぷ、ぷろぽーずだったの!?」
と今さらながらに気付いて、二人を呆れさせた。
「弁慶殿が聞いてなくて良かったわね‥‥‥」
「がっかりした顔を見るのも楽しいけどね」
「‥‥望美ちゃん、なんか黒いよ」
もうすぐ鎌倉から、彼らが帰ってくる。
早春の息吹と共に。
そこから新しい日々がきっと始まる。
「ね、和議には何を着ていくの?」
「ええ?普通だよ?」
「ダメ!ちゃんとお洒落して行かなきゃ!望美ちゃんのお披露目会なんだから、ねえ朔?」
「ち、違うよ!そりゃ白龍の神子として出席するけどあくまでそれは源氏と平家の‥‥」
「あら、それもいいわね。衣装を新調しましょうか?」
「朔まで!もう!」
屈託なく笑う少女に、望美の胸が不意に熱くなった。
「どうしたの?」
「‥‥‥ううん」
きっとこれで、時空を超える旅も終わる。
この時空で、やっとのこと。
そして最後の選択肢が、望美達を待っている。
和議という平和を宣する儀式の後に‥。
ACT44.恋願う永遠
20080313
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