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「終わったのか‥‥?」

「‥‥たぶん」


譲にこくこくと頷くけどゆき自身も信じられないでいた。

二人の呼びかけを受け一斉に攻撃をする彼らの刃が眩しく閃いた。


直後に聞こえた絶叫と崩れる政子の身体。
それが終焉を意味しているとは分かるものの、あまりにもあっけない気がして。













茶吉尼天が消え、神気を失った政子の身体が地に臥すと、弁慶が脇に座った。
彼女の手を取り脈を測れば、弱いながらも規則正しいそれを感じる。



「弁慶、義姉上は‥‥‥」

「‥‥‥主な外傷も見当たりません。政子様はただ気を失われているのでしょう」



あからさまにホッとする九郎に笑いかけ、弁慶は外套を脱ぎ政子の身を覆った。

幾ら気絶しているだけとはいえ、この寒さの中に放置すれば風邪を引く。
それに茶吉尼天の意思であっても身体は政子自身のもの。
あれほどの激闘の後なのだ。
相当な負担がかかっているはず。



「政子様を早くお連れせねばなりませんね。鎌倉殿のもとへ」

「ああ。こんな場所にいては風邪を召される」

「私が連れて行こうか」



リズヴァーンの申し出を一瞬吟味して、弁慶は首を振った。


「リズ先生にそうして貰えれば話は早いのですが、今後の事を話し合わなければなりませんから」

「そうか」



今後の‥‥‥そう、政子の中の茶吉尼天の消失を報告するのは自分と九郎の役目だ。
頼朝の元には景時もいる。
彼もしっかりと巻き込んで、今後のことを話し合わねばならない。


頼朝が政子の口からゆきの存在を聞いているのか否かを、さり気なく確認する必要もある。
彼女が二度と狙われる事のないように、先手を打つことが一番の課題だろう。




「少しだけ、待ってくれませんか?」

「あ、ああ‥‥」


政子の身体を抱き上げてすぐにでも出発しそうな九郎に待ったをかけると、戸惑いながらも頷く。

けれども弁慶の視線の先に気付くと、一気に破願した。


視線の先には、疲れ果てへたり込みながら、何やら譲をからかっている様子のゆき。












「だから!今がチャンスだって言ってるの!!」

「だったら元宮が行けばいいだろ!」

「わ、わ、私の事はいいから!」

「俺のこともいいから!」



近づく弁慶の存在にも気付かないのか、真っ赤な顔で言い合う男女がいた。

実に楽しそうに声を荒げている。



こちらはこの瞬間の為に随分と遠回りしたのだと、密かに感慨に耽っていたというのに。



(彼女らしいと言えば、彼女らしいけれど)



感極まって駆け寄るどころか、体力の限界で動けない辺りがなんともゆきらしい。
それでも自分に気付かずにいるのは戴けないが。それも譲といる事が。



「楽しそうですね。何を話しているのですか?」

「有川くんってば望美ちゃんに‥‥‥‥あ」



反射的に返事をしながら振り向いたゆきが、弁慶の姿を認めた途端に固まった。



「譲くん、彼女に話があるので‥」

「分かりました。俺は皆の所に行ってますから」

「ええ。すみません」



弁慶の眼に危機を察知したのか。

そそくさと去っていく同級生の後ろ姿を若干恨めしく思いながら見送れば、不意に視界が遮られた。





 


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