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「え、えええっ!?」


驚きに眼を見張りながらゆきは、自らの胸元から視線を逸らせない。




シュッと音がして、望美の手から白く清らかな光が生まれる。

暖かくて包み込まれるような感覚。
そして素肌から浮かぶ丸い光。
一瞬だけくらむほどに輝いて、次の瞬間に弾けて消えた。



「き、消えた‥‥」

「‥‥‥今まで、呪詛が表面に出てこなかったから、私が触っても浄化されなかったんだね」

「嘘だあ‥‥‥」



呆然と呟く。



(そう言えばこの前の呪詛の種も、望美ちゃんが触るだけで消えてた‥‥‥‥‥‥)



「うわぁぁぁ!!」



絶叫にびっくりした譲が見れば、ゆきが頭を抱えて座り込んでいた。


「ゆき?」

「元宮!?」

「私っておバカだーっ!!」

「お前はっ!‥‥‥もういい」



場の緊張をぶち壊し。
そんなゆきに答えようとして、言葉を紡ぎかけて九郎は諦めた。


そんな光景に、弁慶が嬉しそうな微笑を浮かべたのを譲は見た。



元気を戻したのだから、ゆきの危機とやらは望美が『祓った』のだろう。
望美もホッとしたように笑っているのだから、間違いないはず。


これで心置きなく戦えると言うもの。

今度こそ望美も弁慶も戦闘に集中した。















弓という性質上ある程度離れていなければならず、譲は室内の最奥にて矢を番えていた。





政子が繰り出す光の玉を矢で射落としては、仲間達に当たらぬようにするものの、キリがない上に政子本体を狙うのは困難だった。
狭い室内に、入れ替わり一撃や術を繰り広げる仲間を避けて、政子を狙うのは。


それでもじっと矢尻を引きながら、矢を射る機会を狙い続ける。



「ね、有川くん」

「元宮!?」



いつの間にか隣に来たゆきが、譲の腕を突ついた。




「ね、これで政子さんを狙ってくれる?」

「はぁ!?これは無理だろ!重過ぎる」

「あ、大丈夫!私が術で何とかするから」

「何とかって!」

「いいから!‥‥‥お願い」



譲はゆきの眼と彼女の手に持つ古びた短刀を見比べた。
さっきの彼女とは違う、凛とした表情を。


‥‥‥暫しの間の後、溜め息を吐く。



譲が短刀を受け取ると、ゆきの顔が笑みを浮かべた。
それから彼女は、自分の着物の肩にある飾り紐を千切る。
手早く矢の先端に短刀を括り付けて、差し出した。



「‥‥‥不意打ちを狙うなら、一度だけしかチャンスはないんだよな」

「うん、有川くんなら出来るから!それに望美ちゃんにいいとこ見せるチャンスだよ!!」

「あのなぁ‥‥‥まぁ、やってみるけど」



譲の返事に再び笑うと、ゆきは眼を閉じた。









(こんな簡単だったんだ)



思えばゆきはずっと、一人で悩んでいた。
一人で思いつめて一人で泣いて。



(でもね、だからこそ強くなれたよ)



甘えれば楽だったけれど
もがいて辿り着いた今ならそれでいい。






キリ、と弓弦の引く高い音。




「掛け巻くも畏き隠月大神と大照大神に‥‥‥」



併せて呪を詠唱し始める。





譲の矢が、政子に届くように。

ヒノエと敦盛から託された熊野の神気が、茶吉尼天を弱らせるために。





「‥‥‥‥‥‥祓い給え清め給え」

「今だ!!」






ゆきの力を受けた譲の一撃は、真っ直ぐに茶吉尼天の背後に吸い寄せられて行く。

その身を損ねる事無く、政子の内にある存在のみを傷付けるように。



「グッ‥‥‥アァァァァア‥‥‥!!」



上がる咆哮。



「春日先輩!」

「弁慶さん!今です!!」






これが最後となりますように。



ゆきは祈る気持ちで離れた彼らを見つめた。





 


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