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ゆきの葛藤を知ってか知らずか、いやきっと知った上でのことだろう。
九郎の剣を意図も簡単に避けると、政子はクスクス笑った。


「‥‥‥早く私を封印なさればいいのに」

「ダメ!‥‥‥‥だから、守るためには私が!」

「それこそ許すはずがないでしょう」



優しく愛しい声が、ゆきの決意を凪いでしまう。




零れた涙を隠すには、俯くしかなかった。

あのまま政子を体内に閉じ込めて、命を絶ったなら‥‥‥『守れた』のに。




望美も弁慶も、京もみんな。






「なるほどね。ゆきの中にいたのは、そっちの怖い政子様ってわけ」

「‥‥‥巧妙に気配を隠していたのは、神だから‥‥」

「ヒノエも敦盛も、気付いていたなら何故‥‥‥」



したり顔で頷く彼らに、眉を顰めた九郎が問う。

勿論、眼は政子を見据えたまま。
いつ攻撃がきても対処出来るように。



「わ、私達も定かではなかったから‥‥‥」

「そう言う事。けど、手は打っておいたんだぜ?」

「―――神子!来るよ!!」



お喋りはお終いとばかりに、政子が一撃を繰り出す。

完全にゆきに気を取られて背後を向いていた望美の背中は、言わばがら空きだった。



「神子!」

「望美さん!!」



一瞬早く反応したリズヴァーンと弁慶の刃がそれを阻止すれば、政子は元の位置に戻る。



「しっかりして下さい!」

「弁慶さん、でも、でも‥‥‥っ!!」

「僕は諦めません。何か手はあるはずですから」

「でもっ‥‥‥」



(やっとここまで来たのに‥‥‥)




政子を倒しても、ゆきの中には既に茶吉尼天がいる。
倒しても、倒さなくても‥‥‥‥‥‥ゆきは。


だとしたら、どうすればいいのだろう。
諦めたくなんてない、けれど。



「‥‥‥望美ちゃん、泣かないで」



気遣わしげなゆきの声に、初めて自分が泣いてる事を知る。




まだ、泣くには早過ぎるのに。



「‥‥‥私も、弁慶さんと同じだよ。諦めない」



握り拳でぐっと、眼に浮かぶ物を拭う。



諦めてはいけない。

ゆきが、大好きだから。








‥‥‥僅かな時間しか経っていなくとも、回復が早いのか。


最初に対峙した時より格段に動きの速くなった政子を、弁慶は苦々しく思う。



(何か手は‥‥‥)



政子から繰り出される攻撃の、その動きは予測が付かない。



払い、凪ぎ、隙を見ては打撃を展開する。
数人掛かりで、それでも倒せないのは、何処かで踏ん切りが付かないからだろう。


『政子を倒しても、次はゆき』


それが彼らの逡巡を促しているのだから。



(ゆきの‥‥‥‥‥あれは)



ふと、ひとつの可能性に思い当たる。

もしも自分の考えが正しければ、話は簡単ではないのか?
何故もっと早くに思い付かなかったのだろうか。
それ程必死だったのだと思うと、浮かぶのは苦笑。



「ゆき!君のそれは呪詛ではないですか?」

「は、はい!そうですけど」

「呪詛‥‥‥あっ!?」



ゆきが首を傾げながら慌てて答える。
呪詛の単語に秘められた、弁慶の意図に気付いた望美の驚く声。
正しく伝わった事を証明するかのように、剣を小脇に抱えた望美が彼女に走り寄る。



「ゆきちゃん、手を退けて!」

「えっ!?」



肌蹴た胸元を押さえる手を払いのけるとそのまま、望美が素肌に手を触れた。


紅い、花のような呪詛の紋様に。



させるものかと怒りの形相を浮かべた政子が、望美の背中目掛けて跳んだ。

それをヒノエとリズヴァーンが受け止める。
金属同士が激しくぶつかる音の直後に、政子の背中に飛来する高速の矢。
息の合った連携も神の前には意味を成さないのか、政子は瞬時に移動し事なきを得てしまう。


「流石にああも跳ばれると厄介だ」

「ああ‥‥そうだね」

「ふふっ。もう根を上げるんですか、ヒノエ?」

「冗談!」




  


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