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「君は僕が守ります。
‥‥‥一生をかけて」



弁慶の声に望美は目頭が熱くなった。




ゆきをその背に庇うために望美の隣に移動した弁慶。

ちらっと横目で見る望美と目が合うと、こんな緊迫感の中でも互いに笑った。




弁慶は、ゆきに逢わせてくれた感謝を込めて。

そして望美は、ゆきを止めた弁慶を讃えて。




(‥‥‥やっと、あなたの笑顔が見られるんだ、ずっと)



幾度、幾十と、繰り返した運命を断ち切れる。

謝りながら自らの命を絶つ彼女を、今度こそ見ずに済むのだ。





それがこれ程嬉しいなんて。
今にも泣きそうな程に嬉しいなんて。




(ゆきちゃんの運命の鍵は、弁慶さんだったんだね)












ACT44.恋願う永遠















‥‥‥望美一人なら、自在に時空を行き来できた。

けれど、誰かと共に跳ぶのは初めてで。
辿り着いたのがほんの少し前だった、と気付いた時はかなり焦った。




「弁慶さん。ここまで来て負けたりしませんよね」

「当たり前でしょう?君もまた、一人ではないんですから。それに」



望美に向けられた笑顔が不意に真剣な物となり、弁慶は長刀を振りかざした。


政子から発せられた気の塊を打ち落とすと、再び言葉を紡いだ。
‥‥今度は、彼女だけに聞こえる小さな声で。



「‥‥‥君に、謝罪と礼をしなければならないんですから、こんな所で負けるわけにはいきません」

「‥‥‥謝るのは私相手じゃないと思います」



政子に躍りかかった八葉達。
望美達も、武器を構えて走り出す。

言外に「散々泣かせたんだから」と非難すれば、弁慶が小さく吹き出した。



「ふふっ。君に一本取られましたね。では後で、彼女に‥‥‥謝りますよっ!!」



走った勢いのまま跳躍して長刀を振り下ろす。






あと、少し。



どの時空でもゆきに絡み付く北条政子を。


‥‥‥本性を現した、禍々しい神を

倒せば。



「ダメ!ダメだよ望美ちゃん!みんな!」

「ゆきちゃん!?」

「政子さんを倒しても茶吉尼天は消えないの!」



ぴくり、と一瞬だけ、全員の動きが止まった。

振り返るとゆきが涙を溜めてこちらを見ている。


「‥‥‥‥そう。よく‥‥‥分かっているのね」



先程の短刀による一撃を受け弱っている茶吉尼天なら、何とか倒せるのに。



「どういう事なの、ゆき?」



扇を構えた姿勢で問う朔に、ゆきは静かに答えた。



「‥‥‥‥政子さんを倒せば、今度は私が皆を苦しめる」

「そんなことはさせません。君を守ると言ったでしょう?」

「そうだよ!ゆきちゃんの中に入らないように守るんだから!」



満身創痍の政子が面白そうに動きを止める中。

未だ事情の掴めない彼らは、当事者‥‥‥ゆきと弁慶と望美のやり取りを聞いていた。
武器を構え決して油断せぬようにしながら。



「‥‥‥‥‥‥もう遅いんだよ。政子さんの中の‥‥だ、だきにてん?の一部は、私の中にいるの。ホラ」

「‥‥‥えっ?」

「後ろを向かないで!」



ゆきが上着の止め具を外して襟を寛げる。

突然の奇行に慌てた朔が八葉達に、静止をかけた。




そうして望美と朔の前に現れたのは、鎖骨から胸元に掛けての緻密な痣のようなもの。



「それは‥‥?」

「ね?いつからか分からないけど、前から時々浮かんでは消えてたの」



気付いたのはいつの頃だったか。

でも、初めてこの紋様の意味が分かったのはつい先程。
父と母に会った後に目覚めた時だった。


そしてこの呪を施されたのは‥‥初めて政子に会った、三草山ではないかと思う。




‥‥‥紅い紋様は、ひとつの呪。
今のゆきならば、分かる。

これは彼女を苦しめる神の一部だと。



「このまま政子さんを倒したら私の中の呪詛が目覚めて、きっと私が第二の政子さんになっちゃう」



‥‥‥もし、そんなことになったら。

政子よりも若くて霊力のある、ゆきが茶吉尼天になってしまえば、恐らく今よりずっと脅威となる。



それだけは避けていたかった。



 


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