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『熊野は過ごしやすい場所なのは本当ですわね』


『ええ。気に入って頂けたなら嬉しいですね。それで、わざわざ熊野までお越し頂いた御用とは?』






『ねぇ弁慶殿。もし、龍神に代わる神が京を救うと聞けば、弁慶殿はどうなさいます?』


『現実には到底有り得ない、と。そう答えるでしょうね』


『まぁ、手厳しいこと‥‥‥でも、その神の為に尽力せよと、もし鎌倉殿がおっしゃったら?』


『僕が仕えるのは九郎です。九郎の命なら僕は従うでしょう。ですが』


『‥‥‥九郎はその様なことは認めない』


『ええ。白龍と白龍の神子を守ると決めていますからね。彼は一度決めた事を決して曲げる事はないでしょう』


『そう‥‥‥』









『‥‥‥‥ところで弁慶殿。
三草山で愛らしいお嬢さんにお会いしましたのよ』


『三草山‥‥‥?』



『ええ、とても可愛らしいお嬢さん。陰陽師の‥‥‥そうそう、ゆきさんとおっしゃったかしら?』


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ、彼女が何か?』


『まぁ怖い。弁慶殿のご協力を諦める代わりに‥‥‥あの子を私に下さいませんこと?』


『‥‥‥‥‥‥』


『このまま手ぶらで帰っては、鎌倉殿にお叱りを受けてしまいますもの。あのお嬢さんなら鎌倉殿も喜ばれましょう』


『それは‥‥‥仕方ありませんね』


『あら。でしたら、お話を聞いて下さるかしら?』


『分かりました、そうしましょう』








ACT41.想いの果ての、夢






 

京から鎌倉に来るまでの間に、冬景色に変わっていった。



京より東に位置するだけあって、雪の訪れは早いようだ。


朝比奈の奥の山肌沿いに一軒の小屋が建てられていた。
周りを広葉樹に囲まれ、すっかり葉の散った冬でさえ見付かりにくい造り。



「ここにいるんですか?」

「ええ、誰かに見られると大変です。早く中に」

「ああ」



辺りを窺う弁慶の様子があまりにも、切羽詰まったものに見えたから。


九郎は迷う事なく小屋に入る。
他の者も後に続く。



「‥‥‥‥‥‥‥ゆき!!景時!!」

「兄上!?‥‥ゆき!」



勢い良く入るなり必死に呼び掛けるのは、姿の消えた二人と親しい‥‥‥九郎と朔。



「‥‥‥人の気配は感じないが」

「うん。景時とゆきの気は感じないよ」

「そうなのか?‥‥‥しかし昼間なのに暗過ぎないか?」



敦盛が余人の気を探り、白龍が二人の不在を裏付ける。
譲は眼鏡の上に手を翳して、眼を細めた。



「へぇ。お前の眼鏡はもっとよく見えると思ってたけどね」

「視力が悪いから眼鏡なんだよ」



譲を交ぜ返すヒノエの表情も、警戒しているように見える。

リズヴァーン、望美と最後に入ると、弁慶は扉を締めた。











そこは塗籠のようだった。
扉以外は全て岩を削ったかのような、石の壁。
窓一つないと言う事は、明かりがないと何も見えないということ。



「‥‥‥‥‥っ!!」

「えっ!?」

「弁慶、急に閉めるな!」



がたがた、と慌てたのか物が動く音。
そして、衣擦れの音がした。



「‥っすみません‥‥‥‥もう、明かりを付けて貰って構いませんよ」



弁慶の、息遣いが荒い声がした。

動きが制限されている暗闇で、息が上がる理由など誰も考えなかったのか。

譲と朔はすっかり明かりを取る手段に頭が傾いていた。



「明かりと言われても‥‥‥」

「‥‥そうだわ。白龍、お願い出来るかしら?」

「なるほど、白龍の炎か」

「うん。やってみる」



ぽう、と白龍の指先に明かりが灯ると、近くに照らされた燭台に写した。



「これで‥‥‥っ!!望美っ!!」



朔が戸口を振り返ると、悲鳴を上げた。


一斉に視線が集まった先には。




「春日先輩!?どうして!!」


「どういう事だ!!」




腹から血を流して蹲る望美。

そして―――



「動かないで下さると、助かります」







望美を長刀で刺して、尚且つ

彼女の首に刃を当てている






「すみません、望美さん」

「べ、んけいさん‥‥‥なぜ」






――――――弁慶。



 


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