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時は数刻を遡る。

望美たちが鎌倉入りする少し前、ゆきは政子と対峙していた。




「今のように白龍の神子が怨霊を封じていっても、時間がかかりすぎる‥‥‥弁慶殿は、お嬢さんにそう言ったのではなくて?」



確かに、あの時‥‥‥弁慶と政子の会話を聞いてしまった後に、彼はそう言っていた。



「白龍に五行の力を戻し、消滅した黒龍の復活を待つ。そのような遠過ぎる未来を待つよりも、今すぐに別の神の守護を願った方が確実」

「何を言って‥‥‥」

「そう、弁慶殿に申し上げたのは私ですわ」



ゆきは唖然とした。

確かに、あの時も弁慶が同じ事を言っていたけれど。

こうして今、楽しそうな口調で言われると、信じられない以前に腹が立つ。






望美や八葉が必死に戦っていること。

怨霊を封印して彼らの気を五行に‥龍脈に還す。
龍脈に力が溢れることは、そのまま白龍の力になる。

そしていつか力を戻した白龍と、失われた黒龍が復活して、再び京を世界を守護する応龍となる為に。


その為に、必死で戦っているのに。



「何言ってるんですか」

「私は事実を申したまでのこと」



‥‥‥信じられない。

「望美の首」を、なんて言っていたから、もっと複雑な理由だと思っていたのに。

あまりにも馬鹿げた話だと、ゆきですら思う。



「その『神様』があなたなんですか」



半ば呆れてゆきが問う。
政子は目を和ませる事で肯定した。


あまりにも馬鹿馬鹿しくて、無謀な話。


政子から感じる禍々しい気は、確かに異質で恐ろしい。
正体は分からないけれど、彼女が『神』だと言われれば、納得出来る。


‥‥‥けれど、龍神‥‥‥白龍と、今は姿のない黒龍の合わさった『応龍』。

この世界で応龍と言えば最高位の神。



その存在に代わって京を守護しようと思うなんて、気は確かなのかと思ってしまう。



「‥‥‥‥本気で言ってるんですか?て言うか、弁慶さんがそれを信じて動いているなんて‥‥‥」



ゆきですら荒唐無稽な茶番ごとだと思うのだ。
あの弁慶が信じているとは到底思えない。



「そんな事を本気で取っているなら、あなたも弁慶さんもどうかしてる」

「うふふ‥‥度胸があるお嬢さんね。けれど、弁慶殿が可哀相」

「‥‥‥何を言ってるの?」



政子は憐憫の眼をゆきに向けた。


‥‥‥何故か、胸騒ぎがする。




「ご存じないのね。本当に可哀相な弁慶殿‥‥‥。

今頃は必死で、白龍の神子の首を狙っているでしょうに。肝心のあなたが何も知らないなんて、報われませんわね」



「‥‥‥‥‥‥どういう事ですか!?」









心臓が大きく跳ね上がった。





(今、なんていったの?)




白龍の神子の首?

弁慶が狙う?



「約束が違う‥‥‥」




(だったら私は何の為に、ここにいるの?)



 


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