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‥‥‥潜められた足音が、やがて小さく消えて行った。

名残惜しく思いながら、弁慶は身を起こす。




実はゆきが近付いて来る気配がした時に、起きていたのだ。
眼を開けなかったのは、そうすれば負けてしまうと分かっていたから。

こんな夜中に足音を忍ばせて、自分の元にやってくるゆきに、押さえている想いをぶつけてしまいそうだった。



‥‥‥そうなれば、今までしてきた事全てが無駄になる。






枕元に座ったゆきは何をするでもなく、ただじっと見ていた。

こんな時の表情など、弁慶は見なくても嫌と言う程分かる。




きっと、泣きそうな顔。



「あなたを‥‥‥‥‥と‥‥‥‥ない」



涙で滲んだ声は聞き取れなかった。









きっと今頃、泣いている。

たった一人で、声を押さえて。




自分の理性が押さえ切れなくて、激情のままにゆきを巻込んだ結果がこれだった。


突き放さなければならないのに、どうにも止められなかった。
決して抱えてはならない想いを抱いてしまった結果が、ここにあった。







その涙を拭って、抱き締めたいけれど。





彼女の涙を犠牲にしても、守りたいものがあるから、弁慶は進む。







焦がれれば焦がれる程、遠くなって行く愛しい存在。








それでも、叶えたい願いがあるから。



 


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