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ゆきはすかさず円陣の外側に立って、両手で印を結ぶ。
惟盛の攻撃が仲間に‥‥‥とりわけ二人の神子に届く事のないように、守るために。
そんな彼女を横切るのは、一陣の黒い風。
風と見紛う程に速く走る「彼」は、惟盛に斬り掛かった。
不意打ちの一撃。
「‥‥‥クッ、よくもっ‥‥‥!」
肩を袈裟掛けに斬られた惟盛が、片膝を地面につく。
「神子、封印を」
リズヴァーンが静かに語ると、望美は頷いた。
「めぐれ天の声
響け、地の声
かのものを封ぜよ!!」
「父上、お助け下さい。父上、父上‥‥‥っ!!」
白く美しい光に包まれて、次第に輪郭を薄くする惟盛。
ゆきはただじっと見つめていた。
落ち込む望美に「お前は良くやった」と慰める将臣の声も聞こえぬ程に。
「う〜ん、疲れたね!」
「兄上はそれほど動いてないでしょう?」
「あっ、酷いよ朔〜」
景時が伸びをした。
それに対して朔が辛辣な意見を返せば、誰かが笑う。
帰ろうか、と誰ともなく言った。
「じゃぁ俺、そろそろ行くわ」
惟盛も倒したし、長居出来ない。
そう事も無げに告げる将臣に、九郎が目を顰めてまた会えるか問うた。
曖昧な答えを返して、将臣はゆきを見る。
ただじっと、惟盛の消えた方向を見詰めているゆきを。
「ゆき」
ぴくり、と肩が揺れる事から、将臣の声は聞こえているはず。
けれど眼はこちらを向かず、青白い表情をしていた。
‥‥‥もう、二度と会う事がないだろう。
自分はこれから平家に戻り、一族の為に戦う。
こうしてふらっとでも、平家を離れる訳にいかないのだから。
そんな時に限って、上手い言葉を持たないものだと将臣は思う。
「‥ゆき、じゃぁな」
「‥‥‥将臣くん」
踵を返そうとした所で、ゆきが呼び止めた。
「元気で‥‥」
「ははっ、サンキュー」
今度こそ本当に、歩き出す。
その後ろ姿に、ゆきは願った。
(どうか、元気で)
たった一言に込められた、ゆきの声なき言葉はきっと伝わった筈。
元気で。
どうか、生きて‥‥‥と。
将臣が平家の将だと知っているのは多分、自分だけだから。
その一言が精一杯だったけれど。
「帰ろう」
同じ様に背中を見送っていた望美が振り返る。
「望美ちゃん」
「‥‥‥何?ゆきちゃん」
何かを言いかけた口のまま暫く望美と視線を交わし‥‥‥やがてゆきは笑った。
「帰ろ」
ゆきの満面の笑顔と共に、強く握ってきたゆきの手。
「お腹空いたね、ゆきちゃん」
「うん。晩ご飯何かな?」
「あ、私お団子食べたい!冬の新作みたらし餡が出たんだよ」
「‥‥‥嘘っ!!食べたい!!有川くん今から並んできて」
「何で俺が!」
間髪入れない譲の一言に、望美もゆきも笑った。
お陰で、少し前からぎこちなかった二人‥‥‥幼馴染みの距離が戻ったよう。
「‥‥‥お前達は、食べ物の話ばかりだな」
「九郎さんは説教ばっかりだね」
「なっ‥‥‥ゆきっ!」
笑い声は空高く。
ゆきの手が暖かい。
(この運命で良かった‥‥‥ゆきちゃんが強い、この運命で)
望美は繋いだ手に力を込める。
はらはらと散る紅葉。
木々はもう、裸に近くなっている。
冬はもう、そこに
ACT37.季節外れの花の舞
20080221
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