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「弁慶さん!」
抗議の声も無視される。
気が付けばすっかり円陣から離れてしまった。
「べん 「大丈夫。すぐに終わりますから」」
やはり、抗議は届かない。
「また怪我をされては困ります」
確かに、そうかもしれない。
自分がまた怪我をすれば、周りに迷惑だって掛かる。
‥‥‥‥‥‥治療にあたる弁慶に、一番迷惑が掛かってしまう。
けれどゆきは力なく首を振る。
彼の手はまだゆきの‥‥‥怪我の消えた腕を掴んでいた。
「‥‥‥私は足手纏いなんですか」
腕の熱さを思いながら、険しい顔の軍師をゆきは見据えた。
「私は、私は‥‥‥どんなに頑張っても、あなた達の足を引っ張っているんですか!」
「そんな事は言ってないでしょう?」
望美達が戦う音が、やけに遠く感じた。
金属音、怒号も‥‥‥技を叫ぶ声も。
信じて貰えない事が悲しい。
自分をこうして無力だと思い、いつまでも‥‥‥。
分かっている。
前回の怪我を踏まえて心配をして貰っている事は、ゆきにだって。
それでも押さえられない怒りや哀しみが込み上げてきて、感情のままにゆきは弁慶を問い詰めていく。
「そう言う事なんでしょ?‥‥‥私には何も出来ないって」
「何を言っているんですか?僕は」
「私は嫌だよ!庇われるだけは嫌!」
「ゆき」
「私だって!!」
「ゆき!」
弁慶はほんの少しだけ語気を荒げ、眼光を強くする。
けれどゆきは怒りを露わに睨み付けたまま。
怒りと共に僅かに潤む、栗色の眼。
反射する陽光がキラキラと輝いていた。
‥‥‥怒ったゆきも面白い。
こんな時だと分かっていながら、弁慶は見惚れる。
「そうじゃないんです。もう少し落ち着いて聞いて下さい」
「え?」
訝るゆきへ、静かな視線が注がれる。
「‥‥‥君が傷付くのを見たくないから」
こんな事を言う自分は狡いけれど。
君を一番傷つけているのは、自分なのに。
それでも彼女に言ったのは不変の真理だった。
「‥‥‥‥‥‥っ!!」
ゆきは大きく眼を見張る。
その一瞬後、強い力で弁慶は押された。
突き飛ばされた、と気付いた時にはもう、ゆきの背中は円陣に向かって走っていた。
「めぐれ、天の声!
響け、地の声!
かのものを封ぜよ!!」
ゆきが円陣に戻った時、望美が大きな怨霊を封印したのと同時だった。
光の粒子が眼に眩しい。
「‥‥‥私の可愛い鉄鼠を‥‥‥なんと非道な事を‥‥‥!」
非道なのはどちらか。
その場に居た誰もが思っていたが、口にはしなかった。
「‥‥‥お前の負けだ、惟盛。怨霊は封じられた」
将臣が抑揚のない声で話すのを、誰も邪魔しない。
「いい加減諦めろ」
「‥‥‥怨霊は封じられた?何を勝ち誇っているやら。怨霊はおりますよ」
「‥‥‥まさか」
敦盛が信じられない、といった風に呟く。
「ええ、この私がいます」
「惟盛!!」
将臣の怒鳴る声もまた、何処か悲痛で。
それを聞いて、惟盛は愉快そうに喉を鳴らした。
「不死の力を持つ私が、あなたなどに屈する筈はないのです‥‥‥あなた方に、私を封じる事が出来ますか?」
あくまでもこちらを見下す惟盛。
「やってみせる!!」
望美が再び剣を構える。
「死になさい!」
叫ぶ惟盛の声はそのまま歪んだ気の塊を生み、まっすぐ望美へと向かう。
「春日先輩!!」
「──っ!?」
望美は剣を正眼に構え、来たるべき衝撃に構えた。
だが、気の塊は彼女へ届く前に散る。
「‥‥‥、ゆきちゃんっ!?」
「大丈夫!?」
「ありがとう!」
それだけ告げると、望美は惟盛に躍りかかった。
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