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『‥‥‥それが、取り引きなんですか?』

『ええ。お嬢さんが無理でしたら、貴女の大切な方にお願いしても宜しいのです』

『そんなのダメです!!』

『‥‥‥そうですわね。白龍の神子でも黒龍の神子でも』

『馬鹿な事言わないで。そんなの許さない』

『ふふっ。本当に可愛いお嬢さんですこと。私は、そんな貴女だからお話を持ち掛けただけのこと‥‥‥もちろん私も貴女でなければ、ゆきさん?』





あの人を止めるのは、私。

私でありたいの。











ACT37.季節外れの花の舞









望美達に遅れる事少し。
ゆき達は、弁慶から聞いていた法住寺に走り着いた。

九郎が二人を振り向いて、苛立ちを隠せないままに怒鳴る。



「遅いぞ!」

「ごめんなさい!!‥‥‥あ!あっちに凄く強い怨霊がいるよ!」

「うん、そうみたい」



ゆきが集中する必要もなく感じ取れる程の怨霊の気は、望美達にも分かったようだ。



「恐らく、敵の本体に間違いないね」

「ヒノエの言う通り、平家の者に間違いないだろう」



更にまた走りながらヒノエに答える敦盛を、ゆきはちらっと見る。



(敦盛くんは今、どんな気持ちなんだろう)



怨霊を生み出していると言う者もまた、平家の人物。
彼の‥‥‥そして将臣の、知り合いでもあった筈だ。

だが敦盛の表情は、横髪に隠れて窺えない。



「ゆき」

「‥‥‥将臣くん」



いつの間にか将臣が隣を走り、ゆきの頭を撫でた。
‥‥‥気にするな、と無言のメッセージ。



「心配すんな。俺達でかかればすぐ終わる」

「ああ。ゆきは下がっていればいいから‥‥‥」

「‥‥‥うん」



将臣に続いて、視線に気付いた敦盛も整然と言う。


二人共に、ゆきを心配させない為に。



‥‥‥彼らはきっと、ゆきの泣きそうな表情を誤解している。





戦いを恐れているのは


怖いからでも、二人を心配しているからでもなくて。


ただ‥‥‥進んでしまうから。

時間が。




















目指した先に、果たせるかな。
一人の男が立っていた。
遠目からでも気を惹く華美な容貌の男。



「あれが‥‥‥」

「うむ、間違いない。平惟盛だろう」

「そうみたいですね。あんな所にいるなんて不自然過ぎる」



リズヴァーンが望美に同意し、視線の先にいる人物の名を口にし、譲もまた頷く。

ゆきは密かに瞠目した。


‥‥‥いつの間にか呪詛を施した人物の名を、皆が知っていたのか。
勿論ゆきは、望美達と殆ど同行していないのだから、知らない情報だらけだけど。



(今さら気にしても仕方ないのに)


そう、仕方ない。

けれどやはり、疎外感は拭えなくて。

一抹の寂しさを無理矢理押し込んで、皆に続いた。






  


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