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(‥‥‥これが、ここにいる人たちの幸せが、弁慶さんの守りたいもの‥)










ゆきは五条大橋の欄干をそっと撫でた。

あの春の日、彼が触れた場所温もりを求めて。






そのまま上を見上げる。
雨上がりの空は、洗い立てのように綺麗な青い空だった。














『‥‥‥応龍の調和、ですよ。君も陰陽師なら分かるでしょう?』


『‥‥‥そうならない為にも僕は全力を尽くさねばなりません。失われた応龍を、再び‥‥‥』





春に、ここに来た時、この場所で。
弁慶は応龍を取り戻すと確かに言っていた。






『彼らに取って、平穏な生活が戻ってくるなら、龍神だろうと別の神だろうと構わないんですよ』


それは、弁慶が白龍の神子の首と逆鱗を狙っていると知った時に、言われた言葉。

応龍の調和を願う弁慶の横顔は真摯なものだったのに、どうして変わったのか。











(‥‥‥‥‥‥待って。『別の神』って、何?)









弁慶が、あの彼が、居もしない神の存在をわざわざ示す筈がない。
例え失言であったとしても、『別の神であっても』と言う必要がないはず。



‥‥‥本当に、別の神が、何処かに居るのかもしれない。










龍神すら凌ぐ神が、居たとすれば。



(でも、この世界の最高位の神様は、龍神なはずだよね。師匠もそう言ってたし)




‥‥‥何かが歪んでいる気がして、身震いした。









方法なんかわからない。

けれど、望美を狙うのは弁慶で。
弁慶に指示したのは、北条政子で。


それが『別の神の加護』の為だとしたら‥‥‥









北条政子の背後にいるのは























ゆきは身を襲う戦慄に、気が遠くなった。





















『取り引きをなさいませんこと?』


(私が、頷いた相手は‥‥‥)






『助かる道を、教えてあげますわ』


(私が、取り引きをしたのは‥‥‥)






『私も同じ女として、お嬢さんが弁慶殿を想う気持ちが痛い程分かりますもの』


(政子さんが怖かったのは‥‥‥)

















ゆきは欄干を握り締めた。


そうしなければ立っていられなかったから。

















ただの娘の自分が、どうすれば

大事な人を守れるのか、途方にくれる。







存在すら定かではない存在‥‥‥‥‥‥神、から。














ACT35.この空に手を伸ばしても



20080217


 


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