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「元宮、俺‥‥‥」




耳元で囁く声が熱く聞こえるのは、反則。




ゆきの背中を強く抱き、肩に顔を埋めて泣く譲を振り解ける訳がなかった。




労る様に背を撫でる。




彼は‥‥‥譲は、京に来てからどれほど苦しかったのだろう。


ずっと、ずっと、長い間想っていた幼馴染みと共にやってきて。
突然「白龍の神子」を押しつけられて戸惑う望美を、譲が懸命に支えてきたのを、ゆきは見て来た。



望美を守る八葉の一人に選ばれて、努力を怠る事なくひたすら弓の腕を磨き、必死だった。



望美は必然的に、他の八葉と必然的に一緒になることが増えた。
望美を想う八葉だっているだろう。














あんなに綺麗で強く、気高い望美を

好きになるのは当然。







九郎も、景時も




朔も








そして‥‥‥










「‥‥‥有川くん」



名を呼びながらポンポン、と譲の肩を強めに叩いた。
譲の腕の力が緩む。
意識が向けられた事を感じ、ゆきはホッとした。

相変わらず譲の腕の中だけど、さっきまでの縋る感じはもうない。


そっと譲の胸を押すと、彼は簡単に離れた。

バツが悪そうな表情。

ゆきは笑った。





「有川くん。私、あなたが好きだった」




彼に恋してた頃の自分が見たら、きっとびっくりする。


こんな風に告白するなんて。



口を開こうとした譲を手で制し、もう一度笑った。



「あの頃の私だったら、有川くんの言葉を聞いて頑張ったかもね。振り向かせようって」

「元宮‥‥‥」

「ね、私を好きになれば良かった、なんて嘘は言っちゃダメだよ?」

「‥‥‥それは嘘じゃ 「有川くん、望美ちゃんを好きになった事、後悔してないよね?」」



ゆきは立ち上がり、譲の鼻にびしっと人差し指を突き付けた。

眼を丸くする譲。



眼が合うと、照れた様に笑った。



「‥‥‥そうだな。後悔していない、かな」

「そうそう。今回は許してあげるけど、次はないからね?」

「ごめん、俺‥‥‥元宮に甘えていたよな」


心底申し訳ないと言わんばかりの、譲の謝罪。
ゆきは声を出して笑った。



「あははははは!」

「元宮、笑い過ぎ」

「だって、甘えるって‥!」



少し憮然としている譲に、もう涙の跡はなかった。



「い‥‥‥いいんだよ、有川くん。友達なら甘えても!」



‥‥‥何がそんなにおかしいのか。

涙を浮かべて笑うゆきが分からない。
けれど、そうやって笑い飛ばしてくれるから‥‥‥譲の心も軽くなった。



「ごめん、元宮」



彼女を好きになれば良かった、なんて随分都合の良い逃げ方。
罪悪感は消えないけど。

譲は精一杯の謝意を伝えた。









‥‥‥なのに。



「ごめんだって!!今の有川くん、浮気がバレた男みたいで笑えるんだけど〜っ!!」

「‥‥‥‥‥‥‥お前な」


もういい、と肩を落とす譲には、さっきまでの思い詰めた空気が薄れていた。


それを嬉しく思いながらゆきは尚も笑う。


笑いながらも、心の中で決意を新たにする。




























あなたの大切なひと

絶対に奪わせないからね









ACT35.この空に手を伸ばしても




 


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