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「‥‥‥‥先輩には、分からないでしょうね‥‥‥」



呟く譲によく眼を凝らす。
腕の向こうには、闇にうっすらと浮かぶ、紫苑の髪。



「‥‥‥そんな事言わないで!!」



譲の腕に囲まれて壁に縫い止められるようにして、それでも叫ぶのは望美。



ゆきは動く事も出来ずに、ただこの光景を見ていた。



(え‥‥‥と、望美ちゃんが襲われている?‥とかじゃなさそうだよね)



痴話喧嘩なら、自分の出る幕じゃない。
言い争っている事から、どうやら何か原因があって衝突しているのだろう。
一方的に襲われている訳ではなさそうだ。


暴力などは有り得ないだろう。


何故なら‥‥‥譲は絶対に望美に手を上げたりしない。

それは、以前彼を想っていたゆきだから、よく分かっている。



(‥‥‥帰ろ)



背中を向けたゆきに、今度ははっきりと聞こえた。

譲、の声。



「‥‥‥春も、夏も、秋も冬も‥‥‥ずっとあなたが好きだったんだ!!」





‥‥‥悲痛な声だった。

想いの丈をぶつける、激しい声。



聞いてるこちらまで苦しくなる。
それほどに想いが籠っていた。





(‥‥‥‥‥‥帰ろ、う)





今なら、足音を立てても二人は気付かない。


それでもなるべく音を立てない様に、ゆきは二人の背後の繁みに隠れながら自室に入った。







「‥‥‥なんで泣きそうなの、私」




 


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