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京邸に着くまでの距離を、速度を落とさぬまま敦盛は走った。


門をくぐり、ゆきを降ろす。



「あ、ありがと‥」

「いや、大丈夫なのか‥‥‥?」

「あ〜。うん、平気」



あまりのスピードにクラクラしただけ、とも言えなくて曖昧に笑う。
そんなゆきを見て敦盛は頷く。
「こっちだ」と彼女の手を引いた。


通された室にいたのは。



「お帰り〜、ゆきちゃん!」

「‥‥‥景時さん、ただいま」



ゆきはきょろきょろと辺りを見回した。

だが他に人の気配はない。
室内には景時とゆきと、そして敦盛だけ。



「‥‥‥うん、先にゆきちゃんと話がしたくてね〜。郁章殿から式神が来てすぐに、敦盛くんに迎えに行って貰ったんだよ」

「‥‥‥師匠が、式神を‥?」

「そうだよ。ああ、そこに座ってね」

「あ、はい」



景時は相変わらずニコニコしている。

ゆきは敦盛と並んで、景時の正面に座った。


なぜ、弁慶がここにいないのか。


ゆきは不思議に思った。

何か大事な話がある時はいつも、いつだって。

彼がいて、安心させる様に笑いかけてくれたのに。





それはきっと、今でも。

彼の目的を知った今でも、こんな時は微笑みを浮かべてゆきを励ましてくれるだろう。



「‥‥‥いいかな?」

「は?‥はい、すみません」

「オレの方こそごめんね〜。ちょっとね、話の内容が内容なだけに、他の皆の耳に入るとマズいかなと思ってね」



敦盛くんは口外しないと誓ってくれたからね。



と申し訳なさそうに謝る景時に頷いた。


‥‥‥何かが引っ掛かる。



「君が帰ったら説明してくれと、郁章殿から伝言があったんだ。君の怪我は完治したよって。良かったね」

「はい、ありがとうございます」

「もう動かしても平気だって」

「‥‥‥ゆき、痛みはもう‥?」



安心した様に笑う景時と、まだ心配そうな敦盛。



「うん!どこも痛くないよ!」

「そうか。それなら‥‥‥良かった」

「ありがとう」



敦盛の手を握りしめて礼を言う。

途端に、彼の頬が赤くなった。



「‥‥い、いや、その‥‥‥友、だから‥」


(うわあっ!覚えてくれてるんだ!!)







『友達になって下さい』

『わ、分かった‥‥‥』


あの時の言葉を忘れずに、
こうして心底心配をしてくれる。


敦盛の気持ちが嬉しくて、ゆきは泣きそうになった。



「‥‥‥本当に、無茶はダメだよ?」

「‥‥‥‥‥‥すみません。景時さんも、泣きそう‥」

「あ、‥‥‥ああこれ?し、心配したからね!!‥‥‥っと、それよりひとつ聞きたい事があるんだ」

「?はい、なんですか?」





景時はゆっくりと笑った。











「君の師匠は‥‥‥郁章殿は、君の何かな?」


















ACT33.符号と疑問と






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