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「‥‥‥‥んん‥?」



ゆらゆらと、身体が揺れている。

ふわりと浮遊するような感覚。




ああ、これは‥‥‥この感触を、私は知っている。



あれは、いつの事だったかな。



誰かが私を背負ってくれてるんだね。


‥‥‥確か以前、こんな事があった。




あの時私は初めて見た怨霊に怯えて気絶したんだよね。
そして、探し出してくれたのは‥

あの人だった。







「ん‥‥‥あれ?」



目覚めると、闇の中。


ゆきは一瞬眼を見張って、そうではないと気付く。

闇ではなく、夜の帳が降りていたのだと。



(あれ?待ってよ)



確か師匠出かけたのは、朝だったはず。

少なくとも、こんな暗闇になるには半日程掛かる時間に、出発していた。


明らかに不自然だ。



(私、術をかけられた‥‥‥?)



最後に覚えている光景が、札と師匠。
彼の眼はまっすぐゆきを捕らえていたのだから、まず間違いない。

でも、何故?

ゆきを眠らせる必要があったのだろうか。



「う〜‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥起きたのだろうか」

「えっ?‥敦盛くん?」

「ああ」



ゆきは再び眼を見張った。
夜闇と、術を掛けられた事実ですっかり失念していた。

ゆらゆらと揺れているということは、誰かが揺らしているということ。
つまり現在の状況は、敦盛に背負われているということになる。



‥‥‥もしかしたら、紫の髪に気付かない程に、動揺していたのかも知れない。



「あ、敦盛くんごめんね!重いよね、降りるから」

「‥‥‥いや。私なら、構わない」

「でもっ、ずっと背負ってくれたんでしょ?」



闇に慣れた眼で辺りを見回す。
民家が軒を並べていた。
京の‥‥‥恐らく三条か四条通りだろうか。

どちらにせよゆきが気絶するまでいた、鞍馬山から随分と距離がある。


もしかしたら、その間ずっと背負ってくれたのかもしれない。
そうゆきは思うと、恐縮した。



「ごめんね、降ろして」

「‥‥‥」



暫く何やら考えていた様子の敦盛は、ふぅ、と息を吐いた。

敦盛が肩越しに振り返る。
菫色の眼がゆきを真直ぐに捕らえた。



「‥‥‥私は怨霊だから、これ位で疲れる事はない‥‥‥それよりも」

「え?」



問い返すと、「いや‥」とまた敦盛は正面を見る。



「怪我はもう、いいのだろうか‥‥‥?」

「へ?怪我?」



ゆきはきょとんとして問い返す。

それからふと気付くと、傷跡にもう片方の手で触れてみた。



「‥‥‥‥‥‥あれ?」



今朝は確かに厚い包帯が巻かれていたのに。



「え?え?」



はしたない、なんて言葉はどこかに消えて。
衿に手を突っ込み、直接素肌をまさぐる。



「‥‥‥‥‥‥うそ。ない‥‥‥」

「‥‥‥ない、のか?」

「えええっ!?ないよ!?ないんだけどっ!!治ってるんだけど?」

「‥‥‥そうか」

「そうかじゃなくて、治ってるんだよ!?敦盛くん治ってる!!」

「あ、ああ‥‥‥」



敦盛の両肩を掴み、がしがしと揺さぶった。





朝は‥‥‥いや、結界を破った時にも、傷口がじくじくと痛んでいたのに。
今、触れるているのは、滑らかな素肌。

傷ひとつない感触が指先を滑れば、混乱するもの。

絶叫するゆきを顔色ひとつ変えずに背負ったまま、敦盛は言った。



「‥‥‥詳しい話は景時殿がしてくれるだろうから、速度を上げていいだろうか」

「え?あ、うん」

「そうか」



言うなり恐ろしい速度で、敦盛は走り出した。
とても人を一人背負っているとは思えない。



「うっ‥‥‥うわぁぁぁ!!」



(あ、敦盛くんって凄すぎるっ!!)



何か言いたいのに、舌を噛みそうな程に揺れている。
ゆきはただ、敦盛の首にしがみついた。

振り落とされない様に‥‥‥。




  


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