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二人に襲い掛かったのは

見た事も、感じた事もないほどの、烈なる力。






だが、衝撃は訪れなかった。

恐る恐る開けた、ゆきの眼に映ったものは‥‥‥



「‥‥‥うそ‥‥‥」

「京にいた頃の泰明の眼は、右と左で色が違っていたんだよ。何故か分かるかい?」



数珠を持つ片手で生み出した、金色に輝く星紋の壁。

そして余裕すら感じ取れる郁章の背中だった。



「‥‥‥‥‥‥何故かって‥‥‥‥‥呪い?」

「そう。正解だよ、ゆき」








『何かを身体に封すると、それは身体の一部に顕れるんだよ。常に表面に在ったり、ふとしたきっかけで顕れる時もある。
‥‥‥‥‥‥それは呪詛でも、呪いでも同じ』


以前、土御門邸で彼から教わったゆきは、呪詛と言わず「まじない」と発音した。

それは、父親の眼の事を指しているから。
自分の父親に施された、らしきものを呪詛だと思いたくないという、無意識からの言葉。



「‥‥‥お父さんも‥‥‥‥‥師匠も、その眼は、呪いなの?」

「そう言えるね。尤も、私は力を解放する時に色が変わるのだが‥‥‥」



紅い光が星紋の護りを打ち砕こうと、まだ降り注いでいる。



‥‥‥だが、安倍家の‥‥‥土御門家に伝わる星の紋様の力は、光を塞ぐばかりか、音すらも遮断していた。
お陰で師弟の会話は穏やかに進む。



「泰明の場合は封印が解けたその時に、『人』となった」

「‥‥‥し、しょう?」

「それが彼に施された、最後の呪いだったんだよ」





背後に庇われていたゆきが、ぺたん、と地面に尻をついた。




何か、何だろう。
物凄く違和感を感じるのは、どうしてだろうか。

何が、違和感の原因なのだろうか‥‥‥。



「泰明は孤独だった。父、いや、造り主の願い以上に‥‥‥酷く孤独を抱えていて、彼は独りだった」



孤独。

‥ゆきの父は、孤独だった。




「‥‥‥そんな彼に光を導いた愛情、それを与えたのが君の母親‥‥‥‥‥つまり、あかね殿だ」



そこまで言うと、郁章は徐に数珠を振り上げた。



キィィイン‥!!と金属音がして、紅い光が霧散した。

ゆきは眼を見張る。



「なに、この力‥‥‥」



たった今、郁章が「自身の力を解放したら眼の色が変わる」といった意味合いの言葉を発した。


封印ではなく、解放。


それはつまり、今までの郁章は戸からが封印されていて。

今の姿が本当の郁章だと言う事。



「‥‥‥何故こんな話をするのかさっぱり分からない、といった顔をしているね」



肩越しに振り返り笑う彼の眼は、左は濃紺で。

右が深紅。




「さっぱり分からない、です‥‥‥」



茫然と呟くゆきは、しゃがみこんだまま立てないでいる。






バサ、と大きな羽音。




咄嗟に見上げたゆきは、木の上に天狗の姿を眼にした。



「‥‥‥‥‥‥久方振りに我が結界を破る者が居たと思えば、お主か」

「ああ。惚けてはいない様だね」

「‥‥‥は?」



(‥‥‥‥‥‥知り合い?)


 


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