(1/5)




この関係を、なんて言えばいいのかな。





不思議な縁?


因縁?





変な関係だよね、師匠。








ACT32.解ける運命の糸車











「さぁ、降りなさい」

「‥‥‥‥‥‥‥ん」

「こんな時に眠れる君は素晴らしいと思うけどね、ゆき」

「‥‥‥寝てません、眼を瞑ってただけだもん」



はぁ、と背後から盛大な溜め息が聞こえる。

ゆきは無視して、郁章に続き狛犬の背から降りた。

すぐに鼓を打つ音が軽快に響く。
大人ふたりを乗せて尚、余裕を感じさせる白い獣の姿は掻き消え、代わりに一枚の札が残る。
ゆきは札を拾うと、郁章に差し出した。



「いいですね。私もこんな式を出せたらな。さすがに小鳥だけだと、伝言位しか頼めないし」

「そうだね。君の力と血を考えるなら、この程度の式を出せない筈がない」

「うっ‥‥‥」

「修行が足りないね」

「‥‥‥師匠の教え方が悪いのかも知れませんよ?」



せめてもの反論、と長髪の師を睨む。

だが、この男がそんな事で堪える様な可愛らしい性格をしている筈はない。



「私の教え方?完璧だろう?」

「‥‥‥もう、いいです」



今度はゆきが溜め息を吐く。
どうせ口では勝てっこないのだ。



(こんな所は弁慶さんと同じなんだもん)



すぐに人をからかってくる辺りが。


それでも弁慶と違うのは、ゆきの反応だろう。

郁章に対しては至極冷静なのに、弁慶相手だとそうはいかない。

ほんの少しの微笑にも、心臓がいつも騒ぐ。

真剣な眼をされたら、泣きそうになる。
触れられた部分がいつまでも熱を孕んでいるような気がして。
愛しくて、切なくて‥‥‥。



「お出迎えが来たようだね。ぼんやりしている暇はないよ」

「‥‥‥‥‥‥あ、はい」



郁章の言葉で我に返る。
言われるまで気付かない程弁慶の事を考えているなんて、重症なのかもしれない。

もう、苦笑するしかなかった。



「やれやれ、君は下がっていなさい」



懐に手を突っ込み、札を探り出すゆきの頭にポンと手を置くと、郁章は笑いかけた。



「‥‥‥‥‥し、師匠っ!?」

「何故ここに君を連れて来たのか。自分で掴むといい」

「って言うか師匠!!眼っ!?」




驚愕に叫ぶゆきに笑うだけで何も答えず。

郁章は懐から数珠を取り出した。




濃紺の眼は、右側だけを『真紅』に染め上げて。



  


BACK
栞を挟む
×
- ナノ -