(3/4)
眼が覚めた。
室内は真っ暗で、誰もいない。
さっきまでリズヴァーンと話していたつもりだが、いつの間にか眠っていたようだ。
瞼を擦ろうと腕を上げて‥‥‥走る、激痛。
「‥‥‥いたっ‥‥‥」
(あ、そっか。私‥‥‥肩を斬られたんだっけ)
反対の手で痛む箇所に触れると、指先に厚く巻かれた包帯の感触。
(跡が残るかなあ)
なんて溜め息を吐くのは、自分も女だからだろうか。
秋も深まり初めていた。
外は強い風が吹いてるらしく、樹々のざわめく音がする。
束の間悩んで‥‥‥ゆきは起き上がった。
物凄くよく眠っていたような爽快感がする。
リズヴァーンと話してからどれくらい経ったのか分からない。
けれど。こうなればどうせ、眠れそうにない。
ゆっくりと立ち上がると、ふらつく足元。
「うわあ‥‥‥足が萎えてる‥‥」
一体、どれだけ寝ていたのだろう。
それとも、こんなに体力を奪うほど、深い傷を負っていたのだろうか。
ふらつく足で何とか濡れ縁に辿り着き、庭に下りた。
「‥‥‥綺麗な満月‥」
頭上には、円を描く黄色い月が静かに輝いている。
雲一つない紺の空に、柔らかい光。
なのに、月が泣いて見えるのは‥‥‥
「私の代わりに泣いてくれてるみたいだね」
話しかけた瞬間、涙が滲んだ。
やっと、ゆっくり考えられる。
『これ以上時間をかけていられない。こうしている間にも、京に住む人達は苦しい思いをしているのですから』
「でも、ね。だからといって何で望美ちゃんなの?」
きっと弁慶のことだから、自分にいえないことなど山ほど抱えているのだろうけれど。
ゆきに告げた事などほんの一部に違いない。
それでも、ゆきの心は決まってしまう。
望美の命を弁慶に渡すわけにいかない。
「守るって決めたの」
京に辿り着いた時から決めていた。
何があっても守ると。
「怪我が治ったら、師匠に修行をさせてもらわなきゃ」
たとえ相手が弁慶でも、これだけは譲れない。
‥‥‥いや、弁慶だからこそ。
分かっている。
弁慶から望美を守るなんて、大それた事だって。
あれほどに頭の切れる彼に裏を掻かれてもきっと気付かない。
とてつもなく神経を使うことだと。
決意した強い気持ちと裏腹に、
涙が溢れて止まらなかった。
「‥‥‥でも、もうっ‥‥‥‥‥」
弁慶が好きだと
告げる機会は
失ってしまった。
好きなのに。
始めてあった時からずっと、
ずっと、ゆきの支えだったのに。
手を繋いで、笑って、そんな幸せはもう望めない。
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